1.一つ目の記憶の欠片

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「お前は覚悟があると、残酷な記憶かもしれないというのに」 「……どうだろう。きっと思い出さない方がいいのかもしれない。でも、やっぱり何も無いのは嫌なの」  みんな、そうやって止めてくれるけれど、もしかしたら大したことではないかもしれないじゃないか。そう楽観的なことを言ってみれば、鬼神に笑われてしまった。 「なるほど、なるほど。いや、懐かしい。お前は確かに楽観的な娘だった。そうか、ならば一つわたしからお前に言葉を与えよう」  一つ、間を置いて鬼神は言った。 「お前が記憶を取り戻した時、お前を心から慕っている存在が悲しむだろう。それはお前が現実を受け止めて壊れてしまうかもしれないからだ。だから、記憶を取り戻すと決めたなら壊れてはならない。お前は一人ではないのだ」  私を慕っている存在とは誰だろうか。問おうとして鬼神に「これ以上は何も言えない」と先に言われてしまう。規則違反になってしまうのかな。なら、仕方ないかと私は頷いた。 「私は一人ではないの?」 「あぁ、一人ではない」 「わかった」  一人でない、それだけでも心強かった。鬼神は私の言葉に「それでいい」と頷くように呟く。 「鬼丸にこう伝えよ、わたしはまだ守ろうと」 「それがお言葉?」 「あぁ、そうだ」  お前の試練はこの山を下りて、お言葉を伝えるだけだと鬼神に言われてほっと息をつく。けれど、「気を付けなさい」と忠告される。  お前にとって試練というのは簡単なものかもしれない。だからといって油断して良いものではない。これはお前が考える時間でもあるのだから。鬼神は囁く、「それにこの山から何もなく下りられるか分からないだろう?」と。  そこで何者かに追いかけられたことを思い出した。そうだ、何かに追われていたんだ、私。鬼神は「だから気を付けなさい」とまた言った。 「ここを出たら振り返ってはならない。何があっても」 「うん」 「大丈夫。それさえ守れれば」  優しく囁く声に私は頷くと来た道を戻るために後ろを向く。鬼神はただ一言、「お前の選んだ道に幸あるように」と囁いた。
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