1.一つ目の記憶の欠片

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「なら、一つお前に試練を与えよう」 「……何?」 「この村の先、山の上にお社がある。そこには鬼神様が眠っているんだが、そこまで花を一つ供えにいってくれ。ただし、一人でだ」  村の先に山へと入る道がある。それほど大きくもない小山だ、それに道は一本しかないから迷うことはない。物の怪も住んではいないから命に関わる危機というのはないだろうと鬼丸は説明する。  そこへ一人で行くこと、お社に花を供えて鬼神様のお言葉を聞いてくるんだと。簡単そうに言うけれど、一人で山に入らなければならないのだ。私はちょっとだけ怖気てしまった。 「鬼丸」 「水神龍、これは試練だ。いくら神様のお願いであっても同行の許可できない。お前もこの試練の意味を理解しているだろう」  鬼丸の冷静な声音に水神龍は言いかけていた言葉を飲み込む。そんな様子を見て、一人で行かなければならないのだと理解する。どうしよう、どうしよう。一人なのか、試練なのだからそうだよな。私一人でやらなきゃならないよね。そうだ、そうじゃないと。私は怖気る心に力を籠めるように拳を握って「わかった」と頷いた。 「私、一人で行く」 「そうか、わかった。水神龍は山の入り口まで付き添っていい。あと、そこのちっちゃいの。こっそり着いていこうとしたらただじゃ済まさないぞ」 「ぼ、ボクは着いていったりしないよ!」  ふよふよと浮いていたミカヅキが焦ったように返すも、その声音だけで着いていく気だったのが分かる。鬼丸は呆れたように息をしてから「規則は守れ」と叱っていた。  しおしおとしょぼくれるミカヅキに自分の事を心配してくれていたんだなって思って、「大丈夫よ」と頭を撫でてやる。これが妖かしの国の規則ならば、それを受け入れて従うだけだ。私がミカヅキを安心させるために言った言葉を聞いて、鬼丸は「懐かしい」と笑った。 「前に来た時もそうだった。お前は度胸があった、だからおれは気に入ったんだ」 「記憶を失う前の私は度胸があったの?」 「あったぞ。このおれに向かって「長だからって偉そうにしていいわけじゃない!」なんて言ったんだから」  思い出したようにはっはっはと大笑する鬼丸に、私って怖くなかったのだろうかとか思ってしまう。いや、初めてきたばかりでこんな厳つい鬼に向かって言えるのだから、度胸はあったのだろうな。  そんなことを考えていたら、鬼丸から「供える花は召使いが渡してくれる」と言われて、さっさと行ってこいと手を振られてしまった。どうやら、案内する気はないみたいだ。私が水神龍へと目を向けると、「俺が案内しよう」と手を引かれた。
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