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「また会えて嬉しいわ」
朗らかに微笑む彼女の脇をすり抜けて、私は足早に電車を降りた。
人混みを掻き分けてぐんぐんと進んで行く、彼女は私の後を追い掛けながら「ねぇ、待って」と片手を掲げながら言った。
咄嗟に駅員さんに助けを求めようと、駅務室に向かう私の腕を彼女がぐっと掴む。
「信じられないのも無理ないわ」
「……やめてよ、離して」
彼女はおもむろに着ていたトレンチコートを脱ぐと、脱いだそれを私の両手に押し付ける。
「少しの間、こちらを預かっていただけるかしら」
私は彼女の服装を見て、思わずぎょっとした。
なぜならコートの下の彼女は、いかにもバレリーナが着るような淡い水色のレオタードの上にフワフワのチュチュを履いていたからだ。
咄嗟に腕に押し付けられたトレンチコートを広げて、彼女の格好を覆い隠そうとすると、動揺する私のことなど少しも気に留める様子はなく、彼女はトゥシューズを履いた足で爪先立ちをした。
身体を軽く捻ると、その場でくるくると回転を始める。
まるで頭の上から一本の軸が通っているかのような安定感だった。
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