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慌てて入った古びた喫茶店で、窓際の席に腰掛ける。
腰の曲がった店主のお爺さんが、注文を伺いに席へ来た。
「こういう所に来るのは初めてで、何を頼んだらいいのかしら」
バレリーナに小声でそう言われて、私はメニュー表を指差す。
「分かんないよ、普通はコーヒーとかじゃないの」
「では、そのコーヒーをいただこうかしら」
「じゃあ……私はアイスティーで」
手元の伝票に注文を書き留めると、お爺さんは店の奥へと消えて行った。
「ねぇ、どういうことなの」
「どういうことって?」
「どうしてバレリーナの人形が、人間になって現れたの」
目の前のバレリーナは、ぱちぱちと瞬きを繰り返してから話し始める。
「渚のお父様の最期の願いが"バレリーナのオルゴールを渚の元へ返してあげたい"だったの」
「は、何なのそれ」
私はテーブルの上で、ぎゅっと両手を握りしめた。
「亡くなる人が空へと昇る前にね、願い事を叶えることができるの。叶う数は個人差があるんだけど……渚のお父様はひとつだけだった」
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