ムーンリバーと私

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「はい、どうぞ」  トレーに乗せたドリンクをテーブルに乗せると、お爺さんは伝票ホルダーを置いて立ち去っていく。  バレリーナは、目の前に置かれたコーヒーカップを両手で持つと恐る恐る口元へと運ぶ。 「…………っ‼︎」  苦さに驚いたのか、美しい顔が途端にくしゃっと歪む。 「これ、すごく悲しい味がするわ」  私は呆れたように笑うと、片手でテーブルの脇にある角砂糖を四つ、次々とコーヒーの中に落とした。  黒々としたカップの底へ消えていく真っ白い砂糖を眺めながら、私はぽつりと呟く。 「……お父さん、バカだよ」  私の声を聞いて、バレリーナはこちらを見た。 「願い事するなら"まだ死にたくない"って願えばよかったのに」 「……残念だけど、死の宿命を覆すことはできないのよ」 話す内容にそぐわない、まろやかな声音でバレリーナがそう告げる。 私は俯いたまま、力ない声で言った。 「そうなんだ」
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