ムーンリバーと私

9/20
前へ
/20ページ
次へ
 私はカップに添えられたティースプーンを摘むと、底に残った砂糖の欠片をかき混ぜる。  最後にコーヒーミルクの蓋を開けて、小さな黒い水面(みなも)に白い線を描くと、カップをバレリーナの方へと差し出した。 「神様がなんとかオルゴールを直そうとしたんだけど、完璧には直せなかったの」 「……たしかに、完璧とは言い難いね……」  私は苦笑いを浮かべるしかなかった。 「私は出来損ないよ」  バレリーナはそう言うと、白魚のような手をカップにそっと添えた。 「でも渚と会って、初めて自分の存在に意味を見出せた気がするの」  彼女は空いている右手で、テーブルの上で握り締めたままの私の手を包み込んだ。 「ありがとう」  そう告げる彼女の瞳は、ガラス玉のように煌めいていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加