好きです!

15/15
前へ
/15ページ
次へ
 呆然とした俺の前で、突然土下座を始めた麦太郎の腕を掴んで立ち上がらせる。 「謝るな!! なんか、俺めちゃくちゃダサイだろうが」 「違います、違うんです、聞いて下さい!! ゴメンナサイ! 稚内が無くなりました!」 「は?」 「違います、稚内はあります、引っ越しが無くなりました。私が高校を卒業するまでは、父だけが単身赴任になったんです。大学も好きなとこ進んでいいよ、と。だから、私、センパイと同じ大学を受けるつもりでいるんですが、いいですか? 大好きです!!」  ……、この気持ちをなんと言えばいいのだろうか? 「つまりは?」 「あんなに切なくセンパイと涙のお別れをしたというのに、まさかの引っ越しなしですよ? どんな顔して会ったらいいんですか? 恥ずかしくてもう二度と会いにこれないかと」 「……よし、じゃあ、もう二度と会いに来るな」  一周回って安心したら、いつも通りに腹が立ってきた。 「え? あれ? さっきめちゃくちゃ良い感じだったような? 私の勘違い?」 「多分、勘違い」 「そんなあ!! 好きですよ、大好きですよ、会えない日々はずっと泣いていて」 「マラソン速かったな、泣いてなかったし」 「あれは、マラソンの景品がセンパイだと思って走ったから速かっただけで」 「重っ!! 重いといえば、あのテディベア、胃もたれがすごいんだが、責任もって半分食えよ」 「それって、つまり間接キ」 「やっぱ、やらん」 「えーん!! でも、好きです! ずっと好きです」  尻尾を振っているようなその笑顔に、苦笑い。 「帰るぞ、麦芽」 「え? あ、はいっ! わー、好きです! もう一回呼んで下さい!」 「やだ」 「センパイー! 待って下さいってばー!!」 ――好きだ――  
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加