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「起きろ、麦太郎! 帰るぞ!」
夕暮れに包まれた生徒会室の中、ようやく目を覚ました麦太郎は、ソファーの上にゆっくり起き上がる。
長い睫毛をしばたかせて、ぼんやりと俺を見上げた。
そうして今日もまたいつもと同じ台詞を「おはようございます」ぐらいのレベルで呟く。
「好きです、秋吉センパイ」
「とっとと、立て。鍵閉めるぞ」
麦太郎こと、神崎麦芽が不服そうに口を尖らす。
「聞こえました? センパイ! 私、今日初めて好きって言ったんですよ?」
「若干、語弊があるな。今日はだろ、今日一日を通してだろ? 同じ台詞を昨日も一昨日も多分半年ぐらい前から毎日聞いている」
「間違えてます、先輩! 最初は九ヶ月前の四月です。入学式でセンパイが生徒会長として挨拶をしたその日の放課後に」
「じゃあな、気を付けて帰れよ、麦太郎」
「やだー!! 待ってくださいってば、方向一緒じゃないですか!」
起こさないで帰れば良かったと、小さなため息。
「センパイ、悩みごとですか?」
「そうだな、色々あるわ。お前はなさそうでいいな」
「ありますよ、私にだってあります! センパイが振り向いてくれないとか、色々あるんです!」
犬みたいにキャンキャン俺の周りを跳ねまわる麦太郎に、気楽でいいなと苦笑い。
懐かれたのは、確かにあの日。
桜も盛りをすぎた、四月の始め。
二年に上がり生徒会長として、新入生を迎える挨拶をした日のことだ。
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