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呆然とした俺の前で、突然土下座を始めた麦太郎の腕を掴んで立ち上がらせる。
「謝るな!! なんか、俺めちゃくちゃダサイだろうが」
「違います、違うんです、聞いて下さい!! ゴメンナサイ! 稚内が無くなりました!」
「は?」
「違います、稚内はあります、引っ越しが無くなりました。私が高校を卒業するまでは、父だけが単身赴任になったんです。大学も好きなとこ進んでいいよ、と。だから、私、センパイと同じ大学を受けるつもりでいるんですが、いいですか? 大好きです!!」
……、この気持ちをなんと言えばいいのだろうか?
「つまりは?」
「あんなに切なくセンパイと涙のお別れをしたというのに、まさかの引っ越しなしですよ? どんな顔して会ったらいいんですか? 恥ずかしくてもう二度と会いにこれないかと」
「……よし、じゃあ、もう二度と会いに来るな」
一周回って安心したら、いつも通りに腹が立ってきた。
「え? あれ? さっきめちゃくちゃ良い感じだったような? 私の勘違い?」
「多分、勘違い」
「そんなあ!! 好きですよ、大好きですよ、会えない日々はずっと泣いていて」
「マラソン速かったな、泣いてなかったし」
「あれは、マラソンの景品がセンパイだと思って走ったから速かっただけで」
「重っ!! 重いといえば、あのテディベア、胃もたれがすごいんだが、責任もって半分食えよ」
「それって、つまり間接キ」
「やっぱ、やらん」
「えーん!! でも、好きです! ずっと好きです」
尻尾を振っているようなその笑顔に、苦笑い。
「帰るぞ、麦芽」
「え? あ、はいっ! わー、好きです! もう一回呼んで下さい!」
「やだ」
「センパイー! 待って下さいってばー!!」
――好きだ――
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