静かなる早弁

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安食がどうやって音を立てずに咀嚼できるようになったかは分からない。きっと計り知れないほどの無駄な努力を重ねたのだろう。 そして世のため人のためにならない能力は、当然ながらロクな使い方をされない。 翌日、数学の授業中のことだった。ベテランの風格あふれる男性教師の高杉によって、授業は静かに進行していた。シャーペンが紙の上を滑る音だけが聞こえる。 匂坂は汚い文字で板書を写していると、安食の様子が何やらおかしいことに気がついた。 ちらりと目をやると、安食は手を止め、うつろな目で窓の外を見上げていた。 「腹減った……」 まだ2限目だぞ。そう思った匂坂が「朝メシちゃんと食って来いよ」と小声で言うと、安食は「もう消化した」と死にそうな目で告げてきた。 「カロリーが足りなくて計算どころじゃない」 突如、安食は悲壮な面差しで机の中を漁り出した。
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