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「何してんだよ」
匂坂が見咎めると、安食は信じられない行動を取った。机の上に積み上げた教科書や問題集の陰に弁当箱を置き――こっそり開けたのだ。
これには匂坂も言葉を失った。こいつ、まさか授業中に早弁する気か……!?
匂坂の驚きに、安食は唇に人差し指を重ねた。安食の席は教壇から見て、窓側の一番奥。高杉先生は板書に集中しており、背中をこちらに向けている。今ならバレないかもしれない。だから黙っててくれということか。いや、そうはいってもな。
匂坂が逡巡しているうちにも安食は弁当箱に片手を突っ込み、噛めばパリッとした音とともに油が舌に染み出しそうなウインナーを、目にも止まらぬ速さで口に放り込んだ。
そのまま幸せそうな顔でモグモグし始めたが、この静けさの中にあって咀嚼音はまったく聞こえない。
一体どんな技術だと匂坂が感心していると、安食はさらに、レンコンの煮つけを神速でぱくついた。バリバリと音がしそうだが、やはり何も聞こえない。板書を書き写すシャーペンの音だけがささやかに聞こえている。
安食はレンコンを飲み込み、すばやく弁当箱を隠した。
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