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「できた……。ついにできたぞ」
口いっぱいに弁当を頬張りながら、安食(あじき)は快哉を叫んだ。昼休みの学食のざわめきにまったく埋もれない、通りのいい声だった。
「口に食べ物を入れたまましゃべるなよ、汚いな」
真向かいに座っている匂坂(さぎさか)が、かじった購買のパンをしっかりと飲み込んでからまっとうな指摘を吐き出した。安食と匂坂は高校の入学式で顔を合わせて以来、何かと馬が合い、こうして昼食を共にする仲になっている。
「で、何ができたって?」
「お前、気が付かなかったのか?」
「何に?いつもどおり早弁してたのに、よくまだこんなに食えるな」
匂坂は呆れ顔で牛乳パックのストローに口をつけた。二人とも余分な肉が付いていない体型だが、少食の匂坂は昼食を菓子パン一、二個で済ませることが多いのに対し、安食は日替わり定食のご飯を必ず大盛にする。
「もう一度見てろ……いや、聞いてろよ」
匂坂が訝しげな顔をするのにも構わず、安食はとんかつを一切れ、口に放り込んだ。もりもりと動く口元を見ながら、こいつ今日も午後の授業で居眠りするだろうな、と匂坂は思っていた。だから、安食に言われるまで匂坂はとある変化に気がつかなかった。
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