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灰色少女と大学生
俺はため息をついていた。
割の良いバイトとして始めた家庭教師。
目の前にいる少女がストレスの素だった。
少女は頭も良い。年不相応とも言えるほど成長した肉体。そんな体とは対象的に女児特有の甘い匂い。
(……これで性格さえ良ければ言うことなかったんだがな)
「先生教え方下手っぴー」けたけたと少女は笑いながら俺を小馬鹿にする。これである。確かに俺の教え方は上手くないかもしれない。……と言うか教える範囲内の勉強であればこの少女は教えるまでもないのだ。
「……君は問題もわかってるみたいだし俺の力なんて要らないよね」これは紛れもない事実である。
「俺の方からもっと評価高い先生に変わってもらえるよう言っておくよ」
「へ、へぇー良いんじゃない?」……そう言ってるが少女はどこか寂しそうな顔をする。
僕はその寂しそうな顔に気が付かないふりをして「今日で最後だし一応復習しようか。君ならわかってるだろうけど」と鞄からプリントを取り出す。
30分後、俺は少女の答案を採点をしていた。(……なんでこんな簡単な問題を間違えてるんだ?)少女なら問題無く解けるような問題ばかりだったはずなのに、彼女の答案はお世辞にも良いものとは言えなかった。
「これ真面目に解いた?」
「……分かんない」
「最後くらい真面目にやって……?」
少女は泣いていた。……何故?どうして泣く必要があるのか分からず俺は困惑していた。
「ごめんなさい……」嗚咽混じりの声で少女は謝っていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」壊れたラジオのように謝罪の言葉を繰り返す。
「えっと……」どうすればいいかわからず立ち尽くす。
すると少女は俺にしがみつき大声で泣きじゃくった。
「せんせぇ!私を捨てないで!」……捨てる?何の話をしているんだろうか。
とりあえず落ち着かせるために背中をさすりながら事情を聞くことにした。
「落ち着いた?」
「……先生他の子の所に行かないで」
ぐすぐすと鼻水を垂らしながら彼女は言った。……あぁそういう事か。そうはいっても実際彼女に教えられるものは、俺にはない。
「君の実力だと教えられることは無いんだよ」
「それでも先生が良いのぉ……」……参ったな。
「……君は俺のことあんなに馬鹿にしてたじゃないか。虫が良すぎるんじゃないかそれ」大人気ないとは思いながらも俺は少女にそういった。「だってそれは……。……ううんなんでも無い」
「まぁとにかく無理なんだ。それに君にはもっと良い家庭教師がつくはずだよ。僕みたいに教え方が下手じゃない素敵な家庭教師がね」そう言うと少女はさらに涙を流す。……一体どうしろというのだろうか。
「……もう遅いから帰るよ」
これ以上ここに居ても無駄だと判断して俺は荷物をまとめる。
「待ってよぉ……」と袖を引っ張られる。
「……何?」「……私のこと嫌いにならないで」
俺は無視して部屋を出た。……本当にあの子は何を考えているのかわからない。
翌日、少女の家庭教師は俺ではなくなった。
あまり評価が良いわけではなかった俺に訪問先があてがわれることはなかった。
「さて……どうしようかね」何かバイトでも探してみようかと考えて3日後、携帯がなった。画面を見ると知らない番号からの電話だった。
(……誰だよ)と思いつつも出てみると相手は例の少女の母親だった。
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