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少女と過ごした数ヶ月で俺は少女の事を知れた。
この子は友達がいない。学校の話を殆どしなかったのはそういう事なのだろう。
趣味もないというのは親が勉強漬けにしていたからだった。
俺と映画を見ている時のニコニコと笑っていた表情を見ると、よその家の教育方針とは言えああいう縛りはどうなのだろうと思ってしまう。
……そして俺はそんな少女に残酷なことを言わなくちゃいけない。
俺は一つ咳払いをして、「……ちょっと良い?」
「なぁに?」
「……俺さ引っ越すんだ。……もう家庭教師はできない」「……え?どういうこと?」
「ごめんな」
「なんで?やだよ」
「君の両親から頼まれたことなんだ」頭によぎる『……うちの娘を食い物にしようとしてないか?』親父さんの目は軽蔑が含まれていた。
……まぁ大学生が小学生とベタベタしてたらそう思われるのは仕方ないよな。
「……」彼女は静かに俯く。
「君はもう中学生だ。……俺がいなくても大丈夫だろ?」
「……」
「今までお疲れ様。本当に頑張ったね」
俺は彼女の頭を再び優しく撫でてやる。
「……じゃあな」俺はそう言って部屋を出た。
――
数日後、引越しの準備を終え、俺はアパートの鍵を大家さんに返す。
「お世話になりました」頭を下げて、鞄を背負う。「あ〜寂しくなるねぇ」と大家は言う。
「そうですね」と俺は苦笑いする。
「またいつでも遊びにおいで」
「……はい」
俺はもう一度礼を言ってその場を後にした。
――
電車に乗り、ふぅと一息つく。
(これで俺の役目も終わりだ)
後は俺が居なくなってもこの子がうまくやっていけることを祈るだけだ。
窓の外の風景を見ながら俺はこれまでの日々を思い出していた。
最初は本当に大変だったが、今となってはいい思い出だ。
(でも)
俺は思う。
(もう少し一緒にいたかったかも)と。
あの子自身の連絡先は知らないからもう会うことはないと思うと寂しい。
(どっちが好きになってたかわかんねえなこれじゃ)一人苦笑いをする。少女はあれからもずっと一人でいるのだろうか。
それはそれで心配だが、きっと大丈夫だろう。
「……あ」
駅に到着し、俺は声を上げる。
「忘れてた……」
俺はまだアパートに忘れ物してた事を思い出す。「取りに行くか……」俺は再びため息をつくのだった。
――
「はぁ」
少女はベッドの上で溜息をつく。
「せんせ……」と呟き、枕に顔を埋める。
私は最近憂鬱である。理由は簡単だ。
先生が引っ越してしまったからだ。
私は先生に言われた通り、受験勉強をしっかりやった。ちゃんと毎日予習復習も欠かさず行った。その結果、見事合格できたのだ。
両親は泣いて喜んでくれた。私自身も嬉しかった。
そして、今日はその入学式なのだ。
「……」
しかし、どうしても気持ちが晴れない。
私は学校へ行く準備をしながら、机の上に置いてある写真立てを見る。
そこには私が笑顔で映っている。
「」
そしてもう一つ置いてあったものは……
「……せんせ」
少女はぽつりと呟く。
「……」
少女の目からは涙が零れ落ちた。
――
俺はなんとかアパートの前に辿り着く。
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