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……「ねぇせんせ、好きだよ?」
―――
私は入学式当日。とぼとぼと足だけが動いているような状態だった。
世界は灰色に染まり、大好きな桜も私の目には映らない。(私の世界は終わったんだ)センセのいない世界は私にとって虚無で空虚な空間でしかなかった。
そんな時、駆け足で駆けてく人が見えた。
その人が通る道に色がついていく。桜は華麗なピンク色に、草たちは明るい緑色に、「せんせ……?」私はもう追うしかなかった。新しく買ってもらった通学カバンを投げ捨てて、履き慣れない学校指定の靴で私はせんせを追う。
せんせは前招待してくれたアパートに入っていった。
私は追う。
そして「せんせ」
私は、泣きながらせんせを呼んだ。「どうした?」
せんせは驚いていた。
「せんせぇ〜」と抱きつく。
「ちょっ!き、今日入学式だろ?!なにしてんの!?」
せんせは慌てて私を引き離そうとする。でも離れない。「やだよぉ〜」
「何言ってんだよ!」
「だってぇ」
「ほら早く行かないと遅刻するぞ!」
せんせはそう言った後、ハッとしたように時計を見た。
「学校なんてどうでもいいの!」と言ってさらに強く抱きしめる。
「えーと、どういうこと?」
「せんせと一緒にいたいの」
「いやいや、だから俺はもうすぐ引っ越すから無理なの。わかる?」
「嫌だ」私は首を横に振る。「お願い」と上目遣いで見つめる。
「せんせ……私を連れて行って」せんせは喉をごくりと鳴らす。
「何を言ってるんだお前」
「わかってるよ。わがままなのは」
「なら」
「でも……」
私は潤んだ瞳をせんせに向ける。
「……やだ……離れたくないよ……」
そう言った後、涙が頬を伝った。
「君のお父さんとお母さんに連絡」
「駄目。せんせいなくなるのあの人達のせいでしょ?」「……え?」
「知ってるもん。全部聞いたの」
「な、なんで」
「せんせがもう私の家に来なくなってからあの人達が話してたのを聞いた。
『ロリコンみたいで気持ち悪かったから、来なくなって良かった』って」
彼は驚いた顔をしていた。
「今の私に必要なのってせんせだけなんだ。一緒に料理して欲しいし映画もみたいし一緒に暮らしたい。あの人達も学校も友達も何も要らない。必要ない」
私はそう言って彼の手を握る。
「だから連れて行ってよ」
彼は真っ直ぐな眼差しで私を見つめ、そして口を開いた。
「だめだ」
「どうして」
「君がこれから先幸せになれない」
「そんなの知らない」
「俺はそう思ってる。君はもっと広い世界を知るべきだ」
「狭い世界で良い。せんせだけがいればいい。私の世界を広げてくれたのはせんせだったでしょ?……私にはそれだけで十分」もう私にとっては世界はせんせと同義だった。優しく撫でてくれる大きな手が好き。褒めるときに細くなる目が好き。私の話を聞いてくれる耳が好き。私の匂いを嗅いでくれる鼻が好き。私のために言葉を紡ぐ口が好き。私に触れる指先が、手が、腕が、肩が、胸板が、背中が、脚が、声が好き。全部好き。大好き。愛している。あなたがいないと生きていけないくらいに、私はあなたのことが好きだ。
「ねぇせんせ」
「……」
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