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遡る事数分前。
毎回集まる度にとりあえず何か喋り出す八尋が、あまりにも静かだった。
どうした、と問いかけると少し困ったように眉根を下げて、地を這うような音がした。
「お゛で、ぎょう゛の゛どの゛じょう゛じが」
「わかった、悪いのは分かった。喋るな」
「普段人より喋らない真咲が喋るなって言ってる……」
「ここで厄介な絡みしないでくれ善弥、面倒くさい」
「ごめ゛ん゛な゛、よ゛ろ゛じぐ」
「あーもう、お前はマジで一言も喋るな! 病院は行ったのか?」
「う゛ん゛、い゛っ゛だ。じゃ゛べる゛な゛っ゛て゛」
「わかった、わかったから! ジェスチャーにしてくれ」
「真咲がクッソ喋ってる……」
「今からそこに置いてあるカメラの電源を入れてお前の幼稚園から今現在までの恥ずかしいエピソードを2時間ぐらい録画して編集無しで全世界に垂れ流すぞ良いか」
「それ脅しです真咲くん!!」
「無口の一言で済むものを嫌な言い回しするからだろ!」
「嫌な事したら仕返して良いのかよ! 人の心は!」
「嫌な事してきたヤツがそれ言うか!?」
「お゛ち゛づ」
「お前は喋るな!!」
「やっちゃんは黙ってて!!」
声が重なった所で八尋が思いのほか落ち込んだ顔をしたので、勢いをそがれた。
「ごめん、真咲」
「別にいいよ。お前が昔から人の事煽るの上手いのは知ってるし、俺も冗談にしては性質が悪かった」
「いいよ……ごめん」
「お互い悪かった」
「うん」
「じゃ、とりあえず今日はこのままお休みで。飯は食ったのか八尋」
「ま゛」
「分かった、首を左右に振ればわかるから」
「スケッチブックで筆談しよ」
「ああ、それいいな……え?」
どこに隠していたのか、人数分のスケッチブックを善弥がサッと配り、その後太い油性ペンが渡された。
「これでよーし!」
「……うん?」
「今から筆談!」
善弥が元気よく手を上げると、それが合図になったのを受け入れてしまった俺達はそのまま言葉を発するのをやめた。
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