お返しのマシュマロ

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 一か月後、ホワイトデー。 「はい、これ。バレンタインありがとう」 「ありがとうございます、生徒会長!」  丁寧にお返しを渡す遠坂に、女子生徒が目をハートにして行列を作っている。アイドルの握手会か何かだろうか。  当然、その中に青野の姿はない。  放課後の生徒会の時間も、特にバレンタインデーの話題もホワイトデーの話題も出ることはなく、庶務が一人そわそわとするだけで、淡々と過ぎた。  結局あの二人どうしたんだろうか、と思いながらとぼとぼと校門を出たところで、庶務は気づいた。 「いっけね、忘れ物!」  ばたばたと生徒会室へ戻ると、中から人の話し声がする。  びたっと足を止めて、庶務はそっと扉を開け、隙間から様子を窺った。  中にいたのは、遠坂と青野だった。 「青野、バレンタインありがとうな。これ、お返し」  遠坂が可愛らしいラッピングの小箱を取り出すと、青野が目を丸くした。 「会長。どなたかと勘違いしてませんか? 私、バレンタインは渡してませんよ」 「いいや、くれただろ? 惑星形のチョコ。俺が天文学が好きだって言ったの、覚えててくれたんだな」  朗らかに笑った遠坂に、青野は照れたように顔を俯かせた。どうやら当たりのようだ。 「こ、これ、開けてもいいですか」 「ああ、もちろん」  青野が嬉しそうにリボンを解く。覗いている庶務まで、何故かどきどきしてきた。  綺麗なラッピングが解かれると、中から出てきたのはマシュマロだった。 (か、会長ーーーー!)  庶務は心の中で絶叫した。声を上げるわけにはいかない。しかし、しかしだ。 「あ、ありがとうございます。大切にいただきますね」 「喜んでもらえて良かった」  少しだけ引きつった青野に気づくことはなく、遠坂は無邪気に笑った。  そのまま二人が部屋を出てきそうだったので、庶務は慌てて隠れた。  二人が生徒会室から十分に離れたのを確認して、庶務は部屋に入り、忘れ物を回収した。 「あったあった」  ほっとして息を吐くも、先ほどの出来事を思い返して、渋い顔をしてしまう。  完璧な生徒会長。優等生の生徒会長。女心も、知り尽くしていそうなのに。 (お返しの意味、調べなかったんですか、会長)
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