告白ノート

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「付き合ってくれて有難う」  彼はそう言うとトボトボ帰っていった。誰が象の人形を置いたのか遂に分からずこの会は解散した。力になってあげたかったが俺の実力ではこれが関の山。最初から分かっていたさ。なんて事はない。これはゲームなのだから落ち込む必要なんてない。 「態々来てくれて有難うな」俺は彼女に感謝を述べた。 彼女の貴重な時間を無駄に奪ってしまい少し心苦しい。 「いえ、とても楽しかったです。またお邪魔しても構わないでしょうか?」 心臓が脈打つ。どうやら俺にとっては無駄な時間では無かったらしい。 「はい。いつでも来てください」 彼女は慎ましく微笑んだ。 「ええ、それではまた近いうちに」  暫く二人で見つめ合う。時刻はそろそろ夕方。ロマンチックな時間帯だ。夕焼けのせいだろうか。彼女の頬が妙に紅い気がする。 「そう言えばいい忘れていました」  いい忘れ?何だこのムードは。この瞬間は。学校生活は始まったばかり。こう言うイベントはもっと後半だと思っていた。俺の瞳が動揺で僅かに揺れる。 「鶏を殺したのは私です」  唐突に彼女は告白した。罪の告白。何の罪悪感もない満面の笑みだった。 「正確には先生と私の共犯ですね。もっと言うなら最初に鶏を殺したのは私です」 何が起きている?何を言ってるんだ?だって先生が書いたんだ。鶏を殺したって。 「私が間違えて鶏を殺してしまったと伝え、先生を巻き込んだんです。その時のあの方の顔。とても面白かった。もっとよく鶏を観察すれば故意に殺されたと気付けたのに。本当に優しいだけが取り柄だった方」 脳がぐらつく。分からない。どうしてそんな事を言う必要がある? 「まぁ、余り無理をしないで」 彼女は僕を支える。握る手が妙に優しい。彼女は微笑む。 「面白い方。やっぱり貴方に決めてよかった」  まさか麦茶に何か仕込まれたのか。振り払おうにも身体が言う事をきかない。蛇睨まれた蛙。いや、もう飲み込まれてしまったのかもしれない。 「気になっているでしょうから、このまま話しますね。象の人形も私が置きました。なんとなくトレードマークとして置いてみたんですが、思わぬ方向に行きましたね。予測がつかないものはいいです。あぁ、靴の件も私です。象の人形を靴に入れるのには骨が折れましたが、入れ替えはとても簡単でした。あの子の顔を見れてよかった。学校を休んだ甲斐があります」声が聞こえなくなってきた。 「最近楽しいことばかり。きっとこれからもっと素敵になるでしょうね」  彼女が俺を見つめている。吸い込まれそうな黒い瞳のその奥は底知れない悪意で満たされている。 「また明日会いましょう。私もっと面白い事を思いついているの。貴方もきっと気にいるわ」  そこで記憶は途切れた。彼女はこの時何を思って俺に告白したのか。目的ははっきりしない。しかし、これだけは断言できた。 最悪の3年間が始まる。
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