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中学1年生7月の中旬。皆んなが可愛がっていた鶏が誰かに殺された。亡くなったではなく、殺された。最初に見つけたのは当番制で来ていた飼育係の子だった。鶏はクラス分飼われていた。全部で5匹。1羽は全身を潰され残りの4羽は絞め殺されていた。現場は引きちぎられた羽根が錯乱しており、鍵がこじ開けられている形跡が確認された。俺が詳しく知っているのは、現場を目撃したからに他ならない。部活の朝練に来て、あれ程後悔した経験は未だにない。学校側は一応警察に知らせたらしく、授業中現場検証に来ていたのを覚えている。けれどそこから進展しなかった。結局な所不審者が侵入して殺した事になり、犯人は分からないまま事件は迷宮入りした。まさか卒業した後になって進展の兆しが見えようとは。
「僕もこんなにハッキリと殺したなんて書かれているとは思わなかったよ」続けざまに話そうとする彼に俺は待ったをかける。
「よく話が見えてこない。今日お前は何のためにここに来たんだ」
「言ったろう。ゲームをしに来たんだ。名前をつけるなら犯人を当てようゲームかな」
何だその適当な名前は。
「茶化すなよ。こんなくだらない掛け合いを続けるつもりなら帰ってもらうぞ」
彼は素気なく謝ると真剣な顔つきになった。
「この事件は終わってないんだよ」
彼は再びリュックをまさぐると、新品のクリアファイルを取り出した。中に入っていた写真を取り出すと俺の方に向けてくる。写真には変哲のない靴が写っていた。しかし、異様なのは靴の中。一瞬何が入っているか理解出来なかったが目が慣れてくるとようやく認識できた。人形である。象の人形。それが靴いっぱいに敷き詰められていた。俺は戸惑った。何の為にこんな写真を見せてきたのか疑問だったのもそうだが、何処かで見覚えがあるのだ。
「僕の学校の入学式の日。ある生徒の靴が突如としてこうなった。普通なら悪戯で済まされるけれど、事情が事情なんだ」
いまいち鶏と靴の関係性が繋がらない。痺れを切らしたのか彼はもう一枚写真を取り出す。拡大された象の人形。しかし、その人形には空洞があった。要するにこれは指人形であった。
「象の指人形。どこか聞き覚えはないかい」
そう言われるとどこか懐かしさを感じる。はて、どこであったか。この優しさ溢れる単語とは相反した場所にあったような。
瞬間、俺は思い出した。鶏の事件で唯一見つかった有力な証拠。犯人が残していったとされる象の指人形。
「4年越しの犯行だよ。どうやら犯人は鶏だけで終わらせる気はないらしい」
なんてこった。今になってどうしてそんな犯行が起きるのだ。不自然極まりない。
「しかも、タチの悪い事に被害者が鶏の事件で疑われた子なんだよ」
事件が発覚した日。真っ先に疑われたのが第一発見者の子であった。残酷な事にその子は密かに嫌われていた。しかし、これと言って悪い事をしていなかった為、攻撃しにくかったのだろう。それが事件が起きた事によりいい的になってしまった。学校側はその子の関与を否定したが、一度ついた汚名は拭いきれない。結局その子は冷ややかな視線を浴びて3年間を送る事になった。
「こんな奴を僕の学校で野放しになんて出来ない。それにもしかしたらこの先、また事件が起きるかも知れない。どうにかしたい。けれど僕の力だけじゃどうする事も出来ない」
だからここに来たのか。そう言えば生徒会長になりたいと言ってたっけな。学校の乱れが許せないんだろう。口ではゲームだと言っていたが、それは俺を巻き込む為の口上らしい。
「告白ノートを掘り出したのは事件の情報が隠されていると思ったからか?」
「余り期待出来ない賭けだったけどね。」
しかし彼の直感は当たった。ノートには彼の欲した情報がたまたま書かれていた訳だ。運命の悪戯か。犯人にして見れば全くついてない話だ。
「大体の事情は分かった。まだ納得しきれない所はあるけど、協力しよう。それで俺はどうすればいい?」
俺が乗り気になったのを見て彼は満足そうに笑う。
「僕と一緒に犯人を推測してほしい。当てろとは言わないよ。情報が少ないからね」
「じゃあ、推測だけで犯人を決めつけるつもりか?」彼は首を振る。
「卒業アルバムに全員分の一言コメントを書いてもらった。このコメントを筆跡鑑定する。これで誰が犯人かおよそ見当がつく」
羨ましい限りである。俺は何人から貰ったか。余り思い出さないでおこう。
「ちょっと待て、誰がそれをするんだ?俺は出来ないぞ」
「その辺は心配ないよ。プロフェッショナルを呼んだから」
タイミングを図られたようにチャイムがなる。彼はちょうどいいと呟き、玄関に行くよう促した。
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