告白ノート

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 卒業式が終わり、いよいよ4月から高校生活が始まった。殆どの奴らは俺と違う学校に入学し、別々の道を歩んでいく。正直、悲しくないと言えば嘘になるが、常に同じ物なんてない。全てが移り変わっていくのが自然の摂理なのだから受け入れた方が楽だ。  初日の自己紹介はいい出だしだったように感じる。後は友が出来るかが心配だが、きっと時間が解決してくれるだろう。楽観的に構えた方が損が少ない。数十年しか生きていないが、これが俺の培った教訓であった。後は野となれ山となれも好きな言葉である。  そんな華々しい学生生活が本格的に始まろうと言う休日の午後。自宅のチャイムが鳴った。  やっと過ごしやすくなってきたのをいい事にラフな格好で堕落していた俺は、急いで簡単に着替えると玄関を開ける。 「やぁ、卒業式以来だね」  そこに過去の遺産になりかけていた友人が目の前に立っていた。しばらく会えないだろうと踏んでいた俺は狼狽する。 「珍しいな、お前から遊びに来るなんて」 「親友との別れが寂しくてね。いつの間にか足を運んでたよ」  ご冗談を。お前が寂しいだのとそんな繊細な神経を持ち合わせている訳ないだろう。面の皮が厚すぎて刃物でも手に負えないことで有名だろうに。  取り敢えず中に通して、麦茶と余っていたお菓子を広げた。甘い物もあれば文句なしなのだが、何処を探しても見つからなかった。 悪いね、とひと言声をかけ、彼はソファに座った。 「ゲームでもするか。レトロしかないが我慢してくれよ」 「今日はそんな気分じゃないな」  いや、と彼は悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべる。 「ゲームでもするか。ちょうどいいのを持ってきたんだ」  お洒落なリュックが開かれ、凝ったデザインが彫られた白い本が出てきた。どこか既視感を覚える俺はそれがつい最近見た物である事を思い出した。 「それって告白ノートじゃないか。何で持ってるんだ?」  卒業が間近になったいつぞやの朝。彼の提案で俺らのクラスはタイムカプセルを埋めることになった。思い出の品を各々箱に仕まうのが通例であるが、俺らは秘密を入れる事にしたのだ。これからそう遠くない未来。成人式の日にでもここに集まり、皆んなで開けようと誓いあったのだ。  学校側の許可は取っていると思う。そこら辺が曖昧な理由はこのイベントの創始企画運営が全て彼が手掛けているからである。全く、彼の行動力には脱帽せずにいられない。 「それってもう埋めた筈だよな?」俺は彼に訊ねる。 「掘り返した」 掘り返した? 「なんで?」 「中身を見る為」  悪びれもせずに言う彼に僕は呆れ返った。まさか、秘密を書こうと提案したのも自分だけクラスの秘密を独り占めしようと企んでたんではあるまいな。 「なぁ、友からの助言だけどさ。今すぐに元あった場所に戻した方が身の為だぞ。手痛いしっぺ返しを喰らう前にさ」 「心配してくれてありがとう」 いや、心配なんて微塵もしていないのだが。 「でも、リスクを背負わなきゃ真実には辿りつけないからね」 「どう言う事だ?」  論より証拠と彼は慣れた手つきで本をめくっていく。差し出されたページを除くとそこにはこう書かれていた。 鶏を殺してしまった。  歪な文字で書かれていた分、余計に不気味である。彼はその部分に指差す。 「中学1年生の夏。鶏が殺された時の事をまだ覚えているかい?」
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