突入のとき

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「しゃ・・ちょっ、うっ、うっ、うゎぁ~ん・・・・・」  後はもう、言葉になっていない。 「分かった、分かった、何も言うな。心細かったんだろ」  美猫はうん、うんと結羽の胸で何度も頷いた。  後ろで「感動の再開を邪魔して悪いけど、先に美猫さんの髪の臭いをチワワンに嗅がせて」と翔が小声で言った。 【勝手に嗅いでくれ】と言わんばかりに、結羽が美猫を抱きしめたまましゃがんだ。 【チワワン、その女の人の髪を匂って】翔がそっと犬を前に差し出した。  クンクンと匂いを嗅ぎ取ったチワワが逆方向に向かって走り出す。 【院長、いつからうちのハリーの名前、チワワンになったのですか? 】  伏子が翔に向かって文句を言っていた。 【そっちの方が分かりやすいじゃないか、あの二人には】 【それもそうですが…… ハリーもハリーですよね、違う名前で呼ばれてるのにしっかり仕事してるし… 】 【ハハハ、さすがに黄土姉弟が育てた天才犬だね】  獣医師二人がハリーを追って戻って行く。  ハリーは、リビングに寄り道するのでもなく、玄関に向かって突進していた。  伏子が犬一に【玄関の扉開けて! ハリーが外に向かってる】と叫ぶ。  外で龍矢とパトカーに青木を乗せようとしていた犬一がそれに反応した。  急いでドアを開くとハリーが飛び出してきた。  向かう先は青木の車。
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