突入のとき

9/10
前へ
/304ページ
次へ
 車には鍵はかかっていなかった。犬一がサッとドアを開けてやると、ハリーが飛び乗った。  ダッシュボードをガサゴソ漁っていたハリーが「ワン」と吠えた。  お目当ての物を見つけたようだ。  犬一がすぐさまハリーが鼻先を向けている所を探ると「髪束、あったぞ! 」と大きな声で叫んだ。  テレパシーでなかったが、結羽と美猫にも聞こえていた。  結羽が「俺たちも行こう」とゆっくり美猫を立ち上がらせた。 「もう少しだけ、こうしてて」  美猫の一言に結羽の心臓が跳び上がった。1メートルくらいは跳ねたかもしれない。  リビングや駐車場では皆が、詰問したり証拠を押さえたりしている。気にはなるが、今は動けない。  これは俺に託された役目だと自分に言い聞かせ、美猫を抱きしめている。  ただ、だんだん周りが静かになっていった。  皆どうしたんだろう…と不安になる。 【結羽! 気が済むまで抱きしめとけよ。俺たちは先を急ぐから】  突然、翔の声が聞こえた。 【えっ、俺たちだけ居残り? 】 【いや、お前の車は残しているから、後から二人でゆっくり帰って来いよ。俺たちは今か鬼黄の家に行って、残ってる奴らを捕まえる】 【俺は行かなくていいのか? 】 【お前は美猫さんを無事に家に連れて帰る役目だ】  そこに龍矢の声が入って来た。 【美猫からの聴収は明日でいいから、今日は家でゆっくりさせてやってくれ。それから、ここを出る時は玄関に置いている鍵をかけて持って帰ってくれ。明日回収するから】 【はい、分かりました。そうします】  クラクションの音が1度大きく鳴ると、エンジン音がしてやがて外が静かになった。
/304ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加