彼女がメイクを落としたら

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 あぁ、また……。  これで何度目だろう。  私のを見た恋人が、とてもがっかりした顔をするのは。  薄暗いベッドの上。  ほんの少し前までは、そういう雰囲気だったのに。熱がすぅっと、引いていくのを感じる。    今度の彼こそ、運命の相手だと思ってた。ありのままの私を受け入れてくる人だって。でも、やっぱり、今までの男と同じ。 「……だまされた」  小さくつぶやいた彼。    私だって、分かってる。  自分のすっぴんが、アレだってことは。だからメイクは、完璧にしてきた。『美的』と『MAQUIA』と『VoCE』の三冊が私のバイブル。メイクなら、まいやんにも、ガッキーにも、スズちゃんにもなれる。  私は、メイクなしで、この世界に生きられない。  それなのに……。  『だまされた』  そう言いたいのは、私の方。  あなたが『女の子のすっぴんが好き』なんて、言うから。  この言葉には、今まで何度もだまされてきたっていうのに。彼なら、大丈夫。今度こそはって、期待した結果が。  愛していたのに。  悔しくて、彼をにらみつける。   「あなただって、だましてたじゃない」    腹いせに言ってやった。  前に『ちょっと、毛が濃いんだよね』とは、聞いてたけど。腕も足も、胸もボーボーだ。 「なんか、すごいんだけど」 「多少、毛深くても大丈夫だって、君も言っただろう!」 「よ、多少! 全身、ボーボーじゃない!」 「仕方ないだろ! 生まれつきなんだから!」 「私だって、この顔は生まれつきよ!」  ベッドの上、お互い、バスローブ姿で言い合う。   「まさか、狼男だったなんて!」 「そう言う君は、のっぺらぼうじゃないか!」           ─ 終 ─
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