3人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺と付き合ってくれませんか」
大学の桜の木の下で、彼が緊張した面持ちで言った。
「よ、よろしくお願いします……」
花吹雪とともに、ワンピースの裾とロングヘアがなびいた。
アパートの階段を登っている時も、まだ胸がドキドキしていた。
真新しい部屋に、一枚の姿見が置いてあった。その前でロングヘアのウィッグを外す。目の前に、髪の短い男子学生が立っていた。
「ど、どうしよう……!」
ぼくは頭を抱え、くずおれた。今になってはずかしさが押し寄せる。鏡のなかの自分が耳を真っ赤にしていた。
物心ついた頃から、ぼくは可愛い恰好が好きだった。スカートを穿いたり髪を伸ばしたりしたかった。でも、親が許してくれなかった。大学入学と同時に一人暮しをはじめて、その夢がこの春、やっと叶ったのだ。さっそく毎日女装して通っている。
彼の笑顔が脳裡をよぎる。ぼくの返事を聞いて、とても嬉しそうだった。
勢いでつい「よろしくお願いします」だなんて言ってしまったけど、彼はもちろんぼくが男であることを知らない。性別を告白すべきかどうか、ぼくは迷った。
最初のコメントを投稿しよう!