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13 「遅い!麗華は何をしてる。もう20:00だぞ。 何か手違いでもあったのか?まさか誤作動してないだろうな!」 と浩市は、車の中でイラだっていた。 だが、しばらくすると、 麗華の走って来る姿が遠くに見えた。 マスクもサングラスもしていない。 成功したのか!目的達成か!浩市は大声で叫びたい衝動に襲われたが、流石にそれは控えた。 麗華は息を切らしながら、浩市に近づき言った。 その表情も仕草も、若い人間の女性と全く同じである。 「浩市さん。御免なさい、マッサージしたけど、先生眠らなかった。私を、襲ってきたので蹴飛ばしたら痛がっていた。 怪我は無いと思うけど!」 と、泣きながら言っている。 浩市は、訳がわからなかったが、麗華を車に乗せた。 興奮状態の麗華を見ながら、浩市は自分の作ったサイボーグの出来に満足していた。これほど人間の感情と表情と仕草と全てを兼ね備えた、サイボーグがこの世の中にあるのだろうか?と 自分の天才的な能力に独りで酔っていた。 しかし何故大橋は、死ななかったのかの疑問を持ちながらの運転であった。 マンションに帰り部屋に入ってもなお、興奮冷め止まない麗華を椅子に座らせた。 「どうしたの?何があったの?」 と、浩市は優しく聞いた。 麗華は泣きながら、この様に言った。 「浩市さんに言われた通りに、教授をうつ向きに寝かせて 首の辺りを揉んだの!でも、寝てくれないの! 何回も揉んだのよ。でも寝ないの?仕方無いので足も揉んだの。 そうしたら、急に大橋教授が襲って来たの! 腕を掴まれて、キスされそうになったのだけど、マスクしていたから、されなかったの。」 と、臨場感溢れる解説であった。 「奴のやりそうな事だ!それからどうしたの?」 と。浩市は大橋に対しての怒りもあったが、それ以上に次の展開が気になった。 「それで揉み合いになったのだけど、普通なら私の力強いのに、何故か弱いの。負けそうになったの。何故、力が弱くなったのかな? ご飯食べないからなのかな?」 と、子供ぽく訝いぶかる表情が、とても可愛いい。 「力が出ない様に調整した」とは言えなかった。 「それから、どうしたの?」と興味を持って聞いた。 「私、なんとか立ち上がって、教授のお腹を蹴ったの。 教授は痛そうにしてたわ。でも、ほっといて逃げて行ったの。 『待ってくれ』と言っていたけど、待たずに逃げて来たの」 「そうか、そんな事があったのか!良かった麗華が無事で。 でも、‥‥。」 何故、教授は首にマッサージを受けていたのに生きているのか、 疑問であった。 毒が効かないのか? と、ふと麗華の爪を見ると短く切ってある。 おまけに、毒のマニュキアも綺麗に拭き取られている。 (何だこの爪は!いつの間に切って、マニュキアを拭いた。 この、馬鹿女。計画が台無しでは無いか。この、馬鹿女め。) と、いつもの様に口汚く罵ってはいるが、平然とした態度で、 麗華に尋ねてみると、麗華は、 「私、子供の頃から爪の長いの嫌い! お母さんからいつも言われたの『長い爪は危ないから切りなさい』 と、だから切ったの。でもこの爪、硬くて切り難く感じたけど頑張って切ったの。マニュキアも嫌いだから、落としたの」 と、麗華は何も悪びれる事無く、話をした。 挫折を知らない男・浩市の、初めての挫折であった。
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