17

1/1
前へ
/24ページ
次へ

17

17 私は、新美が研究しているビルに行った。このビルはいわゆる雑居ビルで アパートも兼ね備えており、築年数はかなり経ってはいるが、6階建ての立派なビルである。 大学から車で10分ぐらいで着く所で、近い場所ともいえる。 この3階に研究室と事務所がある。 新美の生前中に二、三回か訪れたが、長く居た訳でもなく、詳細は知らない。 ただ、新美の目を盗んで盗撮器と盗聴器を設置してある。 だが、短時間で取り付けた為、全てを映し出す場所に盗撮器を設置出来た訳でもない。 此処で新美は何を研究していたのか? ある程度は知っているが限られた場所だけの盗撮であり、ほとんど判ってはいない。 研究室はかなり広く20畳ぐらいは楽にある。色々な機材が置いてあるのだが、 不思議な事にベッドが置いてあった。 新美は此処で寝ていたのだろうか? だが、布団は置いてはなかった。 盗撮器にはこのベッドは映っていないので、初めて知った事実である。 研究室は綺麗に片付いていて、新美の几帳面な性格を物語っていた。 良く見るとベッドに血の痕跡がある。 此処で手術でもしたのだろうか? だが、新美は医師では無い。 生物実験でもやっていたのか? それとも、何かの解剖か? 此処の費用は一体誰が出しているのか? 新美も私と同じ助教授である。 さほど、収入が有るとは思えない。 バックにパトロンが居るのは間違い無いであろう。 どの様なパトロンであろうか?まさか反社では無いであろうが、新実の事だから、それもあり得る。 私に多くの疑問が湧いてきた。 新美の事を知っている様で、実際は私は何も知らなかった。 研究室から出ると、隣に事務所がある。 そこには、机が置いてあった。 机の引き出しには、鍵が掛かっていたが、簡単に開けることが出来た。 その鍵が鍵の束の中にあったからだ。 その引き出しの中も、綺麗に整理整頓されていた。 その中に古いノートが一冊置いてあった。 そのノートに一枚の古い写真が挟んである。 見ると、少年と少女が写っている。背景は何処かの公園みたいだ。 少年の面影は、新美だと直ぐに判った。 10歳ぐらいの頃であろうか? 隣の子は5歳ぐらいのあどけない少女で、大人になったら 美人になるだろうと予感させる娘であった。 写真の裏を見ると名前が書いてある。 浩市・れいか と、鉛筆で子供が書いた字と思われる。 やはり、麗華は浩市の妹だったのかと、 その時の私は、その様に納得していた。 そのノートは、浩市の幼い頃からの出来事が書いてあった。 何故、浩市は日記をこの場所に置いていたのであろうか? という疑問が湧いたが、新美を知る為に必要な事だと想い先ずは読んでみた。 長い日記であるので、要約すると、 新美は、一歳にも満たない時に母親から捨てられた。 父親も誰だか判らない。 新美は、児童養護施設で育った。 親の事も何も聞かされないまま、浩市は養護施設をから巣立っていった。 新美は幼い時から孤独であった。 養護施設には児童は三十人近くはいたが、誰一人として新美と、 友達になるものは居なかった。 新美は幼い頃から、天才的な才能を発揮していたのだが、 誰も彼の才能には気付く者は無く、新美は変わり者との烙印が押されていた。 だが、新美の才能は中学生になる頃には、認められる様になる。 明らかに周りの生徒とは違うと皆が感じ始め一目置かれるようになるが、 友達らしき人の名前は書いてなかった。 また、写真に写っている、れいかの事も、ほとんど書かれていない。 新美が10歳の時れいかが、突然居なくなった とだけ記載があったがそれだけである。 れいかが居なくなったのは、この写真が写された頃であろうか? 生前の新美が、人に対して、あの様に冷たい態度だった理由が、 「親の愛情を受けた事がない人間であったからだ!」 と、私は日記を読む事で、再確認が出来る想いでいた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加