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次の日、浩市の遺体が大学に戻ってきた。
解剖の結果は、後頭部の骨が陥没し脳にまで損傷を与え、
ほぼ、即死状態だったという報告を受けた。それほどの強い想いで大橋は
新実を殴ったのだ。大橋に対して私は不思議と憎しみが湧いてきた。
私も新美を恨んだ一人でもあるのだが、何故大橋に憎しみが湧くのか、自分でも理解できない。
親戚も見当たらない新美を引き取り、大学側が葬儀を行った。
形式通りの葬儀を終えて新美浩市は荼毘にふされた。
私は、新美を好きでは無かったが、この様な結果になってしまうと、新美が不憫に思えてならない。
余りにも薄幸の人だと感じ、同情すら覚えた。
麗華は、新美の葬儀を知らないのか、麗華の姿は無かった。
もし、知っていて来なかったとしたら、麗華とはどの様な人物であろうか?
麗華を守って死んで逝ったが事実であれば、新美が浮かばれない。
一体、麗華と新美との関係とはどの様な関係であるのか?
私は、その疑問を解消すべく、新美と麗華の育った養護施設に足を運んだ。
その養護施設は昭和五十年頃に建設されていて、少し古ぼけた感じのする所だった。
何人かの児童が、私を出迎えてくれたが、私には子供たちの瞳に警戒の視線が感じられた
新美もこの様に育っていったのであろう。
養護施設の職員に挨拶した後、新美を知っている男性から話を聞いた。
男性は60歳ぐらいの年齢であろうか、頭は白髪が混ざり、顔にも皺が多くあった。
「この前、刑事さんが来られて、浩市君の話をしたばかりですよ。」
と言いながら、私にも同じ話をしてくれた。
話を要約すると、
新美は、子供の頃から優秀で優しい子だった。特に自分より歳下の子供の面倒は良くみていた。しかし、優秀過ぎた為に歳上の子供達からイジメを受けていた。だが明るい、良い子だった。
と聞いた時、私は素直に信じる事が出来なかった。
私が今まで見て来た新美とは、全く違う新美である。
私が、新美と麗華の写っている写真を見せて、男性に尋ねると
[この女の子は麗華という子で、6歳ぐらいの時に、大学の先生の養女になったのだけれど、ずいぶんと前に亡くなったと聞いている。
浩市君はその子の面倒を良くみていた。妹の様に可愛がっていた]
と、わだかまり無く話してくれた。
麗華が亡くなった⁉️ 此の写真の麗華は存在しないのか?
では、あの麗華は、誰だ!
真相の解明をしたい!
研究者の名に懸けて! と強く決意を私は固めていった。
新美の話を、別の女性職員が話してくれた。
この女性も年齢は60歳を超えているであろう。
上品で、落ち着いた口調で話をしてくれた。
「浩市君は、子供の頃から正義感が強くてね。
自分は上の子から虐めを受けていたけれど、下の子が虐めを受けているのを見たら、上級生にでも向かっていく子供だったのよ。
余り友達が居なかったけど、麗華ちゃんといつも一緒にいたのよ。麗華ちゃんも赤ちゃんの頃、両親と死に別れみたいで、
お互いに兄妹みたいに思っていたのよ。」
新美は正義感が強い!?
私は、新美の意外な一面を見た思いだったが、私の新美への悪感情だろうか、
女性の言葉を全て肯定する事は出来なかった。
新美は正義感が強いと思わせていたのだ!
新美は名男優だから、それぐらいの演技はするだろうと、
自分に強く言い聞かせていた。
だが、先入観があれば、正確な判断が出来ないのは、私は知ってはいる。
「麗華さんは、幼い頃に亡くなったと聞きましたが?
誰の元に貰われて行ったのですか?」
女性は、一見言いたく無さそうな、素振りを示したが、心底では聞いて欲しかったのか、ポツリポツリと話を始めた。
「麗華ちゃんが、養女になったのは、麗華ちゃんが6歳の頃で、
大学の先生で、確か名前が大橋と言っていたわ。
今でも私は、あの時の事よく覚えているわ。泣きじゃくる麗華ちゃんを無理やり車に乗せて連れて行ったのよ。
あの男の目は、いやらしくて、玩具を見るように麗華ちゃんを
見ていたわ。浩市君も泣いていた。」
「大橋ってこの人ですか?」
と私はアイホンの中に保存してある、大橋の写真を見せた。
女性は、老眼鏡を掛けじっくりと見ている。
「この男だと思います。二十年ぐらい前の事なので、人相は少し変わってますが、この男に間違いはないです。」
女性は断定するかの様に言った。
「それで、麗華ちゃんはどの様に亡くなったのですか?」
「病気だとか、事故死だとか聞いているのだけど・・・。
よくは、判ってはいないの。でも、私は、大橋に殺されたのかも知れないと思っているの。証拠も無いけど」
と、声が大きかったのか、隣に居た男性が、女性を制し、
「めったな事を言うもんじゃない。あの男と、此処の経営者は
懇意にしているのだから」
と、首を横に振り、女性をたしなめていた。
「浩市君も、あの男に殺されたのですね!この前来た刑事が云っていたわ」
と、女性は顔をしかめ、少し涙ぐんだ声に変わった。
私は、この二人から聞いた事で、新美と云う男がさらに判らなくなってしまった。
新美はもしかすると、私が想っていたよりも良い人間かも知れない。
私は今までの新美に対する見方を修正すべきかどうかを悩みながら、家路にむかった。
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