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新美浩市は、悩んでいた。
サイボーグを作ってはみたが、肝心の頭脳をAIにするか、
それとも人の頭脳にするかの選択に決断がつかないのだ。
サイボーグの製造はさほど困難も無く出来上がったのだが、
頭脳をAIにしてしまっては、ただのロボットになってしまう。
ロボットでは、人間味が無く、味気けがない。
体はサイボーグでも、頭脳が人間で無ければ、人間の感情が生まれて来ない。
だからと言って、簡単に人間の脳をサイボーグに移植は出来ない。
誰か、脳を提供してくれる人はいないのか?
ただし、女性限定だ。製造したサイボーグは、女性であるからなのだ。
浩市には、試してみたい事があった。
浩市は、人に恋した事は今までに一度も無い。
何故、人は人を好きになるのか?
どの様な時に、恋が目覚めるのか?
愛とは何か?
浩市は親の愛情を知らない。 赤児の頃に捨てられたのだ。
育った所は、養護施設。
義務的に育てられ、愛情を感じる事も無く育てられた。
浩市の辞書に【愛】と云う言葉は存在しない。
何故なら人間は強欲で自分が一番、可愛いはずであるからだ。
どれだけ人を愛していると想っていても、いざとなると、
他人に対しての愛よりも自分を優先するはずである。
この疑問を証明する為に、浩市はサイボーグを製造したのだが、
真の目的は別のところにあった。
浩市の目の前に、そのサイボーグがある。
まだ、魂を混入されていないサイボーグが、横たわっている。
屍人の様に見えるが、直ぐにでも目覚めるかの様な雰囲気を醸し出している。
このサイボーグは、浩市の理想の女性像でもある。
その姿は、八頭身で理想的なスタイル。
顔も理知的であり、目鼻立ちも整い、口元にも上品さを感じる。
誰が見ても美女と判断するであろう。
見た目も人間そのもの。
皮膚の感触も女性特有の柔らかさがあり、見抜く人は誰もいないはずである。
だが、サイボーグである。人間に製造された物である。
この女を男はどの様に愛し、サイボーグと判った時どの様に女を見捨てるのか。
これも、一つの関心事でもあった。
(人の脳を移植する!人で無ければダメだ。)と
浩市は、強く想っていた。
(誰か、私の実験に同意し脳をくれる人は居ないのか?
女性限定だが、男でも女性の心を持つ人なら構わない)
広告を出して募集したい気持ちであったが、広告を見ても
応じて来る人は居ないであろう。
浩市は重苦しい気分を変える為に、実験室のあるビルの屋上に上がった。
この、ビルは6階建てであり、見晴らしの良い所で此処ここでの一服は、心が落ち着く。
浩市はこの屋上から見える景色が好きだった。
遠く見える景色は、街並みを映しだし、多くの人達を見下しての感がある
街中の人達が、浩市に平伏している様にも見えた。
浩市にとって此処は、そんな場所でもあった。
その、お気に入りの場所に、見知らぬ女がいる。
(誰だ?私の癒いやしの邪魔じゃまをする奴は!)
遠くからであるが、見える姿は醜い女である。
小太りで、顔も丸く、ぼったりとしている。
顔中は吹き出物だらけで、色は黒く、ぼた餅に似ている。
嫌な物を見てしまった。気分は最低になり、怒りすら覚えた。
「そこの女よ、此処から出て行け!」と、怒鳴るはずだったが、
よく見ると、その女の態度がおかしい。
屋上から飛び降り様としているのか?
自殺するのか?
これはチャンスである。
人間が自殺するところを見るのは初めての体験だ。
どの様に死ぬのか見てみたい。
だが、女はためらっている。下を覗き込むように見てはいるが、
悩んでいるのか、迷っているのか判らないが、ぐずぐずしている。
「早く飛び降りろ!私はそれを見たいのだから、早くしろ!」
と、怒鳴りたかったが、浩市の灰色の頭脳に一瞬閃光が走った。
(この女を利用しよう。黙って死なすのは勿体無いもったいない。)
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