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2 新美浩市は、悩んでいた。 サイボーグを作ってはみたが、肝心の頭脳をAIにするか、 それとも人の頭脳にするかの選択に決断がつかないのだ。 サイボーグの製造はさほど困難も無く出来上がったのだが、 頭脳をAIにしてしまっては、ただのロボットになってしまう。 ロボットでは、人間味が無く、味気けがない。 体はサイボーグでも、頭脳が人間で無ければ、人間の感情が生まれて来ない。 だからと言って、簡単に人間の脳をサイボーグに移植は出来ない。 誰か、脳を提供してくれる人はいないのか? ただし、女性限定だ。製造したサイボーグは、女性であるからなのだ。 浩市には、試してみたい事があった。 浩市は、人に恋した事は今までに一度も無い。 何故、人は人を好きになるのか? どの様な時に、恋が目覚めるのか? 愛とは何か? 浩市は親の愛情を知らない。 赤児の頃に捨てられたのだ。 育った所は、養護施設。 義務的に育てられ、愛情を感じる事も無く育てられた。 浩市の辞書に【愛】と云う言葉は存在しない。 何故なら人間は強欲で自分が一番、可愛いはずであるからだ。 どれだけ人を愛していると想っていても、いざとなると、 他人に対しての愛よりも自分を優先するはずである。 この疑問を証明する為に、浩市はサイボーグを製造したのだが、 真の目的は別のところにあった。 浩市の目の前に、そのサイボーグがある。 まだ、魂を混入されていないサイボーグが、横たわっている。 屍人の様に見えるが、直ぐにでも目覚めるかの様な雰囲気を醸し出している。 このサイボーグは、浩市の理想の女性像でもある。 その姿は、八頭身で理想的なスタイル。 顔も理知的であり、目鼻立ちも整い、口元にも上品さを感じる。 誰が見ても美女と判断するであろう。 見た目も人間そのもの。 皮膚の感触も女性特有の柔らかさがあり、見抜く人は誰もいないはずである。 だが、サイボーグである。人間に製造された物である。 この女を男はどの様に愛し、サイボーグと判った時どの様に女を見捨てるのか。 これも、一つの関心事でもあった。 (人の脳を移植する!人で無ければダメだ。)と 浩市は、強く想っていた。 (誰か、私の実験に同意し脳をくれる人は居ないのか? 女性限定だが、男でも女性の心を持つ人なら構わない) 広告を出して募集したい気持ちであったが、広告を見ても 応じて来る人は居ないであろう。 浩市は重苦しい気分を変える為に、実験室のあるビルの屋上に上がった。 この、ビルは6階建てであり、見晴らしの良い所で此処ここでの一服は、心が落ち着く。 浩市はこの屋上から見える景色が好きだった。 遠く見える景色は、街並みを映しだし、多くの人達を見下しての感がある 街中の人達が、浩市に平伏している様にも見えた。 浩市にとって此処は、そんな場所でもあった。 その、お気に入りの場所に、見知らぬ女がいる。 (誰だ?私の癒いやしの邪魔じゃまをする奴は!) 遠くからであるが、見える姿は醜い女である。 小太りで、顔も丸く、ぼったりとしている。 顔中は吹き出物だらけで、色は黒く、ぼた餅に似ている。 嫌な物を見てしまった。気分は最低になり、怒りすら覚えた。 「そこの女よ、此処から出て行け!」と、怒鳴るはずだったが、 よく見ると、その女の態度がおかしい。 屋上から飛び降り様としているのか? 自殺するのか? これはチャンスである。 人間が自殺するところを見るのは初めての体験だ。 どの様に死ぬのか見てみたい。 だが、女はためらっている。下を覗き込むように見てはいるが、 悩んでいるのか、迷っているのか判らないが、ぐずぐずしている。 「早く飛び降りろ!私はそれを見たいのだから、早くしろ!」 と、怒鳴りたかったが、浩市の灰色の頭脳に一瞬閃光が走った。 (この女を利用しよう。黙って死なすのは勿体無いもったいない。)
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