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3 「おーい、そこの人」 と、浩市は女に向かって叫んだ。 女との距離は10m程である。 聞こえるはずであるが、女は素知らぬ顔で全く気が付かない。 屋上から下を見つめ、憂いを秘めた女の横顔が浩市の目に映っている。 浩市は苛立だちを覚えた。 (聞こえないのか?耳も悪いのだろうか?) 「おい、聞こえないのか?」と、さらに大きな声で叫んだ。 今度はその呼び声に気づいたみたいで、浩市の方に顔を向けた。 (醜いみにくい女だ!)声こそ出さないが、心の中では罵倒ばとうしていた。 だが、浩市にとっては貴重な女になるかも知れない。 浩市は、獲物を狙う鷹の様な気持ちであったが、 それを女に悟られない様に、女に近づいて行った。 「君は一体此処で何をしているんだ? まさかと思うが、ここから飛び降りるつもりでは無いだろうな?」 と、浩市は女の方に向かって歩きながら、脅す様な言い方をした。 女は身動きが出来ないみたいに固まってはいるが、 身体は小刻みに震えている。 その表情は、悲しげで瞼は腫はれあがり、目は赤く充血している。 だが、瞳は綺麗に澄んでいた。 「そんなに怯えなくても、良いだろう?別に君を襲そったりはしないよ」 と、今度は優しくソフトな声で、薄笑を浮かべながら言った。 女の警戒心をほぐす為だ。 女は何も言わない。 不安な表情を浮かべながら、女は浩市を眺ながめている。 (どの様にして、女に自分の事を信用させるか?) を、浩市は考えていた。 怯えている女には、優しく接してやる事が第一であろう。 こちらが、優しい男だと言う事を認識させよう。 その想いから、発した言葉が 「君は今飛び降り様としていたね? 悩みが有るのなら、僕に言ってみないか。相談に乗るよ。」 その言葉を聞いた女の表情が、少し緩んだ。 震えも止まったみたいである。 (この人に相談してみようか?最初は怖そうに見えていたけど、優しい人かもしれない)と、女は思った。 浩市は女に寄り添い 「僕に話してみないかい」 と、今度は優しく甘い声で包み込むように、女の耳元で囁いた。 女は男性からその様に優しく言われたのは、初めてであった。 ましてや耳元でささやかれたのである。 自然と女の目から涙が溢れてきた。 女はすすり泣きしながら、鼻水が出て来るのか、鼻をハンカチでおさえている。 (ブザマな女だ。醜い顔が、もっと醜くなった) と、浩市は冷やかに想っているが、目は優しさを装っている。 「君は、ここから飛び降りるつもりでいたのかい? 私には、その様に見えたのだが。どうなんだい」 浩市の優しい言葉に、女は嬉しさを隠せないのか、 涙を拭きながらコクリとうなずいた。 女の身長は150cmぐらいで小柄だが、デブである。 容姿だけでは無く、スタイルも悪い。 (こんな女が、死のうと生きようと私には関係は無い!) と、吐き捨てる様に心の中で、浩市は言っているが、女を利用できそうだ。 「私の部屋はこの下にあるが、私の所まで来ないかい?」 女は警戒心が溶けたのか、浩市の眼を見て、またうなずいた。 浩市は、獲物を得た狼の様に女の手を引き、浩市の研究室に連れて行った。
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