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料金以上の一枚紙幣で支払いをし、あの子が待っている二人の家に着いたタクシーの後部座席を飛び出した。
鍵を開けるのももどかしく、必要以上にガチャガチャして勢いよく玄関ドアを開けた。
「ただいま!!」
帰宅を知らせながらリビングダイニングに向かうと、きれいに飾られた食卓。
今日のための演出が施されていて……でも3本たてになっている燭台のろうそくは火が落ちていた。
ワインクーラーの氷も溶けて、無慈悲な時間経過を否が応でも私に知らせている。
ガサッと花束をテーブルに置いた。
し……ん、とまるで体に刺さりそうな静けさの中、寝室へと向かった。
ドアを開けると、背を向けた彼女の寝姿がベッドの足元に置いてある間接照明に浮かび上がっていた。
そっと近寄って後ろから布団ごと抱きしめて耳にささやく。
「ごめん……」
「今日は大事な日だって……わかってたよね……?」
「うん。ほんとに、ごめん……」
「なら、どうして……?」
声が掠れている。
絞り出すような、小さな呟きを聞いて抱きしめる腕にもっと力を込めた。
「ごめん……」
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