37人が本棚に入れています
本棚に追加
5
月曜日、土岐くんがまだ教室に来ていないことを確認して、松浦くんに問いただした。
「ねぇ、松浦くん。土曜日に柚木さんと映画観に行ったでしょ」
「え、見られてたの?」
松浦くんは周囲を見渡して、口に手を当てて小声で話した。
「オレと柚木さん付き合ってっから。周りにやっかまれるの嫌だから内緒にしてんの。誰にも言うなよ」
足元から何かが崩れていくようだ。確定だ。土岐くんの失恋が確定した。
私は土岐くんにどんな顔をして会えばいいのだろう。
「あ、土岐おはよう」
松浦くんが、教室に入ってきた土岐くんに手を振る。「おはよう」といつものように教室に入ってくる土岐くんに、戸惑いを隠せない。
「仲道おは……」
「おはよう〜! じゃ!」
かぶせ気味に挨拶をして教室を飛び出した。
あーー、どうしよう。顔見れない。でも、放課後にはまた公園で待ち合わせ。
授業中、土岐くんの背中を斜めに見ながら、ずっと柚木さんと松浦くんのことがぐるぐる回っている。
一日の終わりを告げるチャイムが、今日ほど鳴らなければいいのにと思ったことはない。土岐くんがいつものようにチラッと私を見る。私は平静を装い目を合わせた。先に教室を出ていく土岐くんの後ろ姿を見るのが辛い。仕方なく私は重い腰を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!