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ベンチでジュースを飲んでいる土岐くんに、今日は声をかけづらい。無意識に歩くスピードもゆっくりになる。それでも一歩ずつ近付いていってしまう。
「よっ」
いつもと変わらない土岐くんが軽く手を上げた。
「うん……やろっか」
何も知らない土岐くんに、あんなこと言えるわけがない。
今日も真剣にペットボトル投げと向き合ってる。くだらないけど、くだらなくない。土岐くんの想いはまっすぐで本気だって、今まで応援してきて知っている。
「あ〜、惜しい!」
跳ね返ったペットボトルを、待ってる土岐くんに投げ返す。そして土岐くんはまた柚木さんと付き合えることを願って、一投に想いを込める。
柚木さんがうちのクラスによく来ていたのは、松浦くんがいるからだ。それをごまかすために土岐くんを利用していたのかな。それを土岐くんは知らずに、一途に柚木さんを想っている。そんなの、土岐くんがかわいそうだ。
「今日はもうやめようか」
こっちに向かって歩いてきた土岐くんが、ペットボトルをゴミ箱に捨てた。
「え、なんで……時間もまだあるのに」
「どうした? 今日体調悪い?」
「え、元気だよ」
「今日一日ずっと元気なかったじゃん」
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