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思わず顔がこわばる。チラッと私を見る土岐くんと目が合うのが怖くて、視線をそらした。心が痛い。
私は多分嘘をつくのが下手だ。何かの拍子に口から出てしまいそうで怖い。
何も言えずに頭の中で渦巻いている。気まずい空気が余計に何も考えられなくさせる。
ゴミ箱と並んでいる自販機で、ボタンを押した音がした。ガタンとペットボトルが落ちる音で、ハッとした。
「これあげる」
伸びた手の先には、私が好きなミルクティーのペットボトル。
「ごめん、こんなことに付き合わせちゃって」
「え、なんで、全然気にしてないよ」
土岐くんが謝ることは何もない。むしろ心配かけさせてしまったことを、私の方が謝りたいくらい。
「これありがとう。私、ミルクティー好きなんだよね」
なんとか心配かけまいと、明るく振る舞う。
「うん、知ってる」
「え……」
土岐くんは静かに笑った。
「今日はゆっくり休むこと! また明日もここで待ってるから」
肩に軽く土岐くんの手が触れる。落ちた雫が水紋を作るように、私の心に温もりが広がっていく。
自転車に乗ってどんどん小さくなる後ろ姿が、あっという間に見えなくなった。土岐くんがくれたミルクティーの甘さが、最後まで口の中に残っている。
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