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 玄関を開けると、砂のようなものが散らばっている。  それは点々と足跡を描いて廊下を進み、娘の部屋に繋がっていた。  扉越しに声を掛ける。 「帰ったの?」 「うん、ただいま」 「おかえり」  そう言うと掃除機を持ち出し、廊下の砂を吸っていく。玄関の砂も丁寧に掃き集める。  次の日。  玄関を開けると、砂のようなものが散らばっている。  それは点々と足跡を描いた後、引き摺るような跡を残して、娘の部屋に繋がっていた。  扉越しに声を掛ける。 「……帰ったの?」 「うん、ただいま」 「おかえり……」  そう言うと掃除機を持ち出し、廊下の砂を吸っていく。  今日はいつもより量が多い。  いっぱいになった中身を出すため、キッチンの隅に行って、棚からクッキーの缶を取り出す。  蓋を開ければ、そこには半分ほど砂が入っている。  掃除機の中に溜まった砂を、埃を除けながら慎重に、ピンセットで缶に移す。  真っ白なそれは、カサッと乾いた音を立てた。  その途端、視界は(にじ)み、涙が(あふ)れる。  ――これは、半年前、骨になったあの子の欠片(かけら)。  骨だけになった体で、毎日、帰ってくる。  幼い骨は歩く度に摩耗して、砂粒のような欠片を落としていく。  そして今日、とうとう大腿骨が擦り切れてなくなってしまった。  だから、腰骨を引き摺って進んだのだろう。今までにない大きな欠片をピンセットで摘むと、激しい後悔が私を襲った。  ――死ぬ直前、「絶対に帰って来なさい」と、私が言ったから。  体全てが砂になり、この缶がいっぱいになるまで、素直なあの子は帰ってくるだろう。  缶を抱き締め慟哭(どうこく)する。 「ごめんね……もう帰らなくていいと言えない母を、許して……」
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