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第一話 女神降臨! ハーレム承認?!
「……」
今俺の目の前には天城ビルが大きく聳え立っている。
この街でおそらく最大のビルが奴の城だ…。
正直なんで俺がこんな所にいるのか、場違いもはなはだしく思える。
でも、俺は進まなければならない、それが俺の決めたことだ。
「司郎……」
俺の背後に立っている少女達が、暗い表情で俺に声をかける。
大丈夫、俺は負けはしない、今まで出会った少女達の想いと力が俺の中に宿っている。
「よし!」
俺は覚悟を決めてビルへと足を進める。
奴の力には未知の部分がある、どんな世界が待ってるのかも俺にはわからない。
でも、進む、そうしなければならない理由が俺にはあるのだ。
おれ自身の死が迫ってるから?
……いや、今の俺を動かしているのはそれだけじゃないとはっきり言いえる。
後ろから少女達の声が聞こえてくる。
その一つ一つが俺に熱いものをくれる。
「……さあ! いってくるぜ!
最後の試練!!!!!!!!!」
そう言って俺は右手の”星”を天にかざした。
―――時間はちょうど1年前のあの日に遡る。
-----
「よしゃー!!!」
午後の授業もすべて終わった天城高校の放課後。
少年はカバンを引っつかんで教室を走り出る。
背後からいつもの怒鳴り声が聞こえてくるが、今日ばかりは気にしていられない。
なぜなら……
「姫谷アリスのおっぱい写真集!!! おっぱー!!! おっぱー!!!!」
姫谷アリスとは最近テレビによく出てくるジュニアアイドルで、彼と同じぐらいの年齢でGカップというとても規格外な美少女アイドルだ。
彼は別におっぱいの大きさに貴賎はない。
大きいのは大好きだが、小さいのもそれでそそるものがある……らしい。
……もう、はっきりぶっちゃけちゃうと、”女の子のおっぱいはなんでも大好き!!!! 揉みたい!! 吸い付きたい!!”のだ。
「おっぱー! おっぱー! ……!!」
変な奇声を上げながら走る高校生の少年。
それを、いやなものを見たかのような苦い表情で避けていく通行人。
掛け値なくマジキモイ姿だったのだが、この少年……掛け値なく”馬鹿”であった。
今の彼の心の中は”姫谷アリスのおっぱい”ばかりなり!!
本当は学校を仮病でサボって発売直後のものを入手する予定だったのだが、いつもの”奴”に、いつものように阻まれたのだ。
人気なのでもう売り切れてしまっているかもしれない。
そう思うといてもたってもいられなかった。
そうして街を駆け抜けていくうちに、目的地である天城書店に着いた。
古そうなガラスのドアをおもいっきり開けて写真集のコーナーへと走る。
「……」
そこには”姫谷アリス写真集”売り切れのビラが置かれていた。
「やあ……シロウちゃんか……。
残念だけど例の写真集全部売れちゃったよ……」
「……」
書店店主の、その無慈悲な言葉を聞いて、彼はその場に崩れ落ちた。
店にいた他のお客さんが何事かと集まってくる。
少年はその場に突っ伏して嗚咽を漏らしている。
「……泣くほどほしかったんなら、予約すればよかったのに……」
……もっともである。
だが少年にはそれができない理由があった、そう”奴”が居るから……。
少年は、周りに人が集まっていることに気付くと、涙をぬぐって立ち上がって店主に言った。
「はははあ……!!! 何のことかな?!
俺は写真集なんてしらないぞ?!!」
……店主はジト目で少年を見る。
どうやら少年は、写真集を買いに来たのをごまかそうとしているらしい。
無論店主を、というわけではない……、周りで少年の奇行を眺めている客を、だ。
どうも、彼にも羞恥心というものがあったらしい。
店主はちょっと意地悪な表情をして言った。
「へえ? そうかい?
実は、シロウちゃんが買いにくるだろう予測して、一冊だけ別によけておいたんだが。
それじゃあ、いらないか……」
「!!!!!!」
少年はその言葉を聴くと、わずかな逡巡の後……
真剣になればそれなりである真面目顔でその場に正座した。
そして……
「それ……ください……。
どうかお願いします!!!!!」
その場で、人目も憚らず土下座をした。
この少年の名は”上座司郎”。
彼をよく知る人々からは”土下座司郎”と呼ばれていた。
-----
「ふふーん」
俺は思わず鼻歌を歌っていた。
本屋の店主のおかげで望みの写真集が買えたからだ。
後は”奴”に気づかれないよう家に帰って楽しむだけだ。
おそらく”奴”は、何かしら感づいているだろう。
玄関の前に陣取って帰りを待って、なぜ放課後走って帰ったのか聞いてくるはずだ。
もし写真集が見つかったら最後、書店に返品されてしまう。
”奴”は鬼なのだ。
どこかで時間をつぶして、帰宅時間をずらし、家の玄関から”奴”が退去するのを待たねばならない。
そこで、俺はいつも帰宅時に寄っている神社にやってきた。
表の鳥居には、古ぼけて擦れた文字で”天城神社”と書かれた板がかけられている。
ここは俺にとって隠れ家のような場所だった。
近所の爺さんがたまに掃除に来るだけで、人がまったくこない寂れた場所だからだ。
ここに奉られている神様は恋愛の神様らしいが、なぜか恋愛に悩んだ女性すら寄り付かなかった。
俺は社につるされている鈴を鳴らすと、今日もいつものように祈り始めた。
(神様、仏様! どうか俺を女の子にモテモテにしてください!
そして……美少女いっぱいのハーレムを俺にください!!!
そうすれば!!!! 女の子とあんなことやこんなこと……
……ドゥフ……ドゥフフフフフ……。
グフフフフフフフ……)
女の子を奴隷にしたいとか、そんな下らない事じゃない。
美少女達が自分から俺にメロメロになって、エッチなことをさせてくれる世界!!!!
なんてすばらしい世界!!!!
これこそ男の夢!!!!
それを祈らないで何を祈る司郎!!!!!!!!
それは、あまりに煩悩にまみれた祈り。
無論、そんな不埒で馬鹿全開な祈りなど神様に通じるはずもないのだが。
……まあ……司郎少年にとってはいつもの事である。
……そう、いつものことで終わるはずだった……。
ドン!!!!!!!!
「おわ?!!!」
突然、御神体が奉られているハズの社の扉が開け放たれた。
奥をよく見ると、御神体と思われる古い銅鏡が眩く輝きカタカタと揺れている。
俺は突然のことに、その場に尻餅をついた。
『カミ……ザ… シロウ…』
「え?」
確かに俺の名を呼ぶ声が銅鏡から聞こえてくる。
『上座司郎……
あなたのその願い……確かに聞き届けました……』
今度ははっきりと俺の耳に届いた。
ぽかんと口をあけて成り行きを見守る俺の前、銅鏡から放たれた光がひとつの形を取り始める。
それは、たおやかな少女の姿。
「へ?」
墨を入れたかのような黒い髪と瞳。
そこに飾られているきれいな髪飾り。
どこかしら高貴な御姫様を思わせる、美しく、でも古風な着物。
その少女は俺ににこりと微笑みかけると、俺のすぐ足元までゆっくり歩いてきた。
『私の名は”天城比咩神”この神社の奉神です』
「え!? 神様? マジで?」
俺はとりあえず俺の頬を思いっきり殴ってみる。
……とても痛かった。
どうやら夢を見ているわけじゃないらしい。
『疑うのも無理はありません。
神の降臨などそうそうあるものではありませんし……
しかし、今日はとても熱心な信仰心を持つ貴方に、日ごろのご褒美を与えに来たのです』
「え? ご褒美?
俺そんな神様に認められるようなすごいことしたっけ?」
『……あら、気づいていないのですね。
誰からも忘れられたこの社に、毎日のように、げひ……
……げひんげひん!!!』
そこまで言うと女神様(?)が突然咳き込んだ。
神様の世界にも風邪とかあるのだろうか?
…あれ? 女神様(?)こめかみの部分がぴくぴく動いている?
気のせいかな?
『……失礼。
とても熱心に祈りをささげて頂いて、本当に感謝しております』
女神様(?)は”本当に”の部分をとても強調して言った。
どうやら本当に感謝されているらしい。
たくさんお祈りにきてよかった!(←馬鹿)
『そこで私は、貴方のハーレムがほしいという願いを聞き入れ、
叶えることにしました』
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
……これは女神様。
その時俺はハッキリと理解した。
目の前にいるのは、なんか電波入っちゃってる可愛そうな少女ではなく、れっきとした女神様だ。
なんと、俺の無垢(?)な祈りを聞き入れて、女神様が光臨して下さっちゃったのだ。
俺は思わずその場に正座して、地に額をこすり付けるかのように頭を下げた。
……いや、ここはやはり五体投地すべきだろうか?
「ありがとうございます!!!!!
女神様!!!!!!」
『いえいえ……、そんな風に喜んでもらえて、私もとてもうれしいですよ』
女神様は満足そうに俺に微笑みかける。
とうとう来た。
……俺の時代が来た。
男の夢”ハーレム”がわが手に。
『……で、貴方に与えるハーレムについてなのですが、
注意事項がいくつかあります』
「へへ~~。
どのようなことでございましょうか女神様」
俺はどこぞの御用商人のように揉み手をする。
『私が貴方に与えるハーレムは、女性の心を支配して下僕にするというものではありません』
「はは~~~。
もちろんわかっております』
……まあ、これは当然だろう。
今まで熱心に祈ってきたハーレムは、そういうものではない。
俺のことを心から大好きでないと意味はない。
『私は恋愛を司る女神。
私が貴方に与えるのは、女性と関わることのできる特殊な”絆”です。
貴方好みの美少女達と関われる”きっかけ”と言ってもいいでしょう。
これから1年間、計11人の女性に関するさまざまな問題が、貴方の周りで発生します。
それは彼女らの未来に関わる重大な問題。
それらの問題を解決できれば、彼女らは間違いなく貴方に愛を得、あなたのハーレムの一員となるでしょう』
「……ほうほう」
どうやらすぐにハーレムが手に入るというわけではないらしい。
やっぱり夢を得るにはそれなりの努力が必要ということか。
神様のよく考えそうな事だ。
だが……その努力の先のハーレムは女神様のお墨付き。
ハッキリと目標が見えているなら努力のしがいもある。
『上座司郎……
あなたほどの熱心な者ならば、それらの試練を乗り越えられるでしょう。
そして、その先にあるのはあなたの夢である美少女ハーレム!
……どうですか?
あなたはハーレムマスターとして、試練に挑みますか?」
俺は真面目に考えるフリをした。
そして、すぐにくわっと目を見開き、恭しく女神に頭を下げて言った。
「その試練! 見事に乗り越えて見せましょう!!!」
『そうですか! それはよかった!
……では、さっそくですが、右の手のひらを出してください』
「はい!」
波が来たら深く考えず、波に乗ってみるのが俺の昔からの性格だ。
俺は女神様の言われるままに右手を出す。
すると、なんと女神様がその手に口づけた。
「え?」
『驚かなくてもいいですよ。
これは契約の証、すぐに手の平に”星”のような文様が現れます。
それがあなたに試練を呼び寄せる。
あなたの望むハーレムができるまでそれは決して消えることはありません。
……たとえ、私の力をもってしても』
「は…はあ……」
確かに女神様が言ったように、手のひらに”星”の文様が現れてくる。
俺はちょっとだけ早まったかな?と思った。
契約は女神様本人でも消せないらしい。
「あの……それで女神様……?
試練ってやつはいつから始まるんです?」
『……もう始まっていますよ?』
女神様はかわいく小首をかしげた。
え……?
もう始まってる?
俺の周りでは特に何も起こっていないようだが?
訝しんでいる俺を前に、女神様はちょっといたずらっぽい笑顔を浮かべる。
『……ああ、そういえば言い忘れていたことがあります』
「言い忘れ?」
『あなたが立ち向かう試練……。
もし女の子たちの問題を解決できず、女の子を不幸にした場合……
あなたは問答無用で”死亡”します……』
「へえーしぼうですか?」
俺は女神様の言葉に、間抜けた言葉を返した。
……要するに試練に失敗したら即死亡ということか?
死亡? 脂肪じゃないよな文脈的に?
……え? シ ボ ウ ?
「ちょ!!!! ちょっと待って?!!!!
死亡って? あの俺が死ぬってこと?!!!」
『その通りです。
試練なんでペナルティぐらいあるのは当然ですね?』
「……いや! でも問答無用で死亡ってひどくないっすか?
そいうことは初めに話してくれないと……!」
『……そうですか? でももう契約しちゃったので消せませんね?(テヘペロ)』
「かわいくないから!!!! 全然かわいくないから!!!!」
女神様(?)は小悪魔のような笑顔に小さな舌を出し、自分の頭を小突く仕草をする。
どうやらいやな予感が的中してしまったようだ。
こういうときは自分の先走りしすぎる性格が嫌になってくる。
とりあえず目の前の女神様(?)は、契約においてもっとも重要な事の言い忘れを、テヘペロで済ますつもりらしい。
俺があわてていると、女神様(?)は心底嬉しそうな表情で言う。
『大丈夫! 大丈夫!
貴方のそのハーレムへの情熱さえあれば、きっと試練も軽~く突破できますよ。
それに、美しい少女達の無償の愛を手に入れられるのですよ?
あなたにとって”愛”は”命”と釣り合わないものですか?』
「う……」
俺は声を詰まらせた。
俺も別に”愛=命”だなんてキザなことを言うつもりはない。
……でも、美少女ハーレムに命を懸けられるか?と言われれば、俺は「はい!」と答えてしまう男だ。
俺が考え込んでいると、女神様(?)は不意にさっきまでの笑顔を消した。
『ふ~ん…… 今どきの人間なら、
愛なんかどうでもいい! 死にたくない!
……って言うと思ったのに。
どうやら、あなたは私の……』
そう言った女神様(?)は俺の顔に顔を近づけて再び微笑む。
その笑顔が俺には死を宣告する死神に見える。
『……あなたにいいことを教えてあげます。
ハーレムマスターはハーレムの女性の”特技”を己のものとして使用出来るようになります。
そのハーレムには試練の11人の他に、1人だけあなたの望む女性を入れることができます。
……貴方と親しい女性、それも要となる者……
その女性の”特技”と”想い”が試練への切り札になるでしょう』
その言葉を聞いた時、俺の頭に思い浮かんだのは”奴”の顔だった。
-----
私立天城高等学校。
そこからすぐ南、天城商店街を挟んだ向こうに、結構大きな屋敷がある。
”宮守流古流空手”その看板を玄関に掲げ、日中絶え間なく鍛錬する漢達の声が聞こえるこの屋敷こそ、司郎の言う”奴”の家である。
その屋敷の道路を挟んで反対側、今どきな一戸建て住宅の近くの木の上に人影があった。
「……遅い。
司郎のやつ、どっかで時間つぶして、私の隙をついて家に入るつもりだな」
木の上の人影、それは天城高校のブレザー制服を着た気の強そうな少女だった。
赤みがかったショートヘア、スポーツ少女特有の引き締まった身体。
彼女の名は”宮守要”。
司郎の言うところの”奴”。
幼稚園から続く腐れ縁、いわゆる幼馴染というやつである。
彼女は司郎の行動を読んでいた。
もうしばらく待っていれば、司郎は玄関に彼女がいないと思い込んで、この家に帰ってくるはずだ。
そこを素早く捕まえる、いつものことだ。
ただ、彼女には恐れていることがあった。
「あいつが放課後、素早く帰ったのは……
十中八九……エッチな本を買うためね……」
エッチが絡んだ時の司郎は結構侮れない、さすがに彼女の全力には届かないが。
気を引き締めねばならない。
かよわいウサギを捕えるにも全力で行くのだ。
そう考えているかなめの目に獲物が走ってくるのが見えた。
きょろきょろと周りを見回している。
おそらく自分を探しているんだろうとかなめは思った。
司郎が、かなめの隠れている木のそばの一戸建て住宅”上座宅”に近づいてくる。
彼はその脇に”天城書店”と書かれた包みを大事に持っている。
(目的はアレか……)
周りをきょろきょろ忙しなく見回している司郎が自宅の玄関に到達する。
襲撃するなら今をおいて他はないだろう。
かなめは無駄のない動きで足場の太い木の枝を蹴り宙を舞った。
スタン!
かなめは着地の瞬間に全身で衝撃を殺し、司郎の背後になるべく静かに降り立つ。
漫画とかの忍者のように、無音で降り立つような芸当はまだ出来ない。
突然の音に司郎がかなめの方に振り向いた。
「はい捕まえた……」
「うへ?!」
「観念なさいな司郎?」
「今日は木の上かよ?!」
どうやら彼女の待ち伏せ場所は複数あるらしい。
「かなめ……
相変わらずトンでもない女だな」
「トンでもなくて悪かったわね……」
「……でも、今はこいつに賭けるしか……」
「私にかける?! 何をかけるつもりだ! この変態!」
「いや……賭けるって、そういう意味じゃねえよ?!
俺がお前に何かけると思ってんだよ!
そんな風にとるお前のほうが変態だよ?!」
「あんたがかけるとか言ったらソレしかないでしょ?!」
「ソレって何だよ!! いくらなんでも無闇にかけねえよ?!!」
「無闇じゃないほどにはかけてるんだ……」
「そうだけど、うるせーよ!!!
……いつまで”かける”一つを引き伸ばすつもりだよ!!」
「……ふん?
本題にいっていいの?」
かなめがジト目で司郎を見つめる。
司郎はビクッとして、自分が脇に抱えている書店の紙袋を見た。
司郎はなぜ自分が神社にいたのか、その本来の目的をやっと思い出した。
かなめは紙袋を指差す。
「司郎……それは何?」
「……いや、勉強に使う参考書だよ?
マジで……」
「ふーん……。
どんなのか見せて?」
「なんで?」
「み・せ・て……?」
強力なプレッシャーが司郎を襲う。
今司郎の目にはかなめの背後に巨大な蛇がハッキリ見える。
司郎は死にたくないので素直に渡した。
「……司郎?」
「はい……」
「面白そうな参考書ね?
可愛い女の子の写真がいっぱい……
……なかなか、きわどいわね」
「でしょ?
結構値打ちもあって、それ最後の一冊だっだんすよ!」
「ふーん……
高かったの?」
「……まあ、それなりに……」
「…………」
沈黙が怖いですかなめさん。
「司郎……」
「はい、なんでしょうか。かなめさん」
「私は別に男の子がこういう本を買うことを悪い事とは思いません。
むしろ、ちょっとエッチなくらいが男の子としてマトモでしょう」
「ですよね?」
「……これのお金はどうやって手に入れたの?」
「……なにが?」
「エッチな本買い過ぎて、今あなたの小遣いスッカラカンでしょ?」
「……いわなきゃ駄目?」
司郎は小動物のような目でちょっと可愛く言ってみた。
かなめは小動物を喰らい飲み込む蛇の目で司郎をにらみ返す。
「……売りました」
「何を?」
「写真を……学校の女の子達に……」
「誰の? どういう写真を?」
「……かなめ様の隠し撮り写真でございます」
かなめの額に巨大な怒りマークが出たのを司郎はハッキリと見た。
「あんたってオトコは…!!!
だから、いつも、口をすっぱくして”無駄遣い”は駄目って言ってるでしょ?!
小遣いを無駄遣いすると、そういう方向でお金稼ぎに行くんだから。
どっかのエロオヤジに売らないだけまだマシだけど……
そもそも、隠し撮りはれっきとした犯罪なんだからね?
聞いてるの司郎?!」
「はい、すみません」
「私はね……誰でもない司郎のために言ってるんだからね?
司郎のお父様やお母様に、司郎をよろしくって言われてるんだから!」
「そうですね、すみません」
「あんたの部屋、もうエロ本が積みあがって、雪崩れおきそうになってるじゃない!
アンタは”山のようなエロ本に押しつぶされて高校生死亡”ってテレビに出たいわけ?」
くどくどくどくどくど……。
かなめのお説教が始まったので、司郎は神妙な様子でその場に正座した。
こうなったらもうおしまいだ、蹂躙されるがままにするしかない。
……と、そのとき、狙い済ましたかのように一迅の風が吹いた。
かなめのスカートがふわりとひらめく。
(……今日は薄い青でございますか)
司郎は風でひらめくスカートの奥をじっくりたっぷり舐るように見た。
そこは男たちが目指す桃源郷。
神のおわす神聖なる領域。
(……ちょっと拝んでみようかな)
「あんたは……説教の最中に何してんの?!!!!!!」
かなめの蹴りが司郎のちょっと元気になってる”オトコノコ”に飛んだ。
クリティカルヒット!
「いろはにほへとちりぬるお……!!!!!!!!!!」
司郎はたまらず、奇怪な言葉を発しながら、そこらを転がりまわった。
「お……お前…ヒド……。
……俺のオトコノコが、不能になっちゃったらどうすんだよ」
「手加減は十分心得てるから大丈夫よ」
「いや……手加減すればいいってもんじゃないからね?
ホント痛いんだからね男は」
「はいはい……わかったわよ。
今度はもっとやさしく、なでるように蹴ります」
「お願いですから蹴らないで下さい」
かなめは司郎を見てため息をつく。
別に彼に対してむやみな暴力を振るいたいわけではない。
そもそもうちの道場では無用な暴力を禁じている。
だが、目の前のこの司郎という男、精神的にも肉体的にもやたら頑丈な男である。
ボケに対するつっこみでも、それなりに力をこめないとまったく効かないのだ。
まあ、それでも戦闘モードとも言うべき全力には程遠い手加減状態なのだが。
しいて言うなら”対司郎つっこみモード”だろうか?
「あ……あの。かなめサン?」
「うん? 何よ……まだなんかあるの?」
不意に司郎が暗い顔をしてかなめを見上げる。
その表情に何かを感じたのか、かなめは司郎の前にしゃがんで目線を合わせた。
「……なによ、言ってみなさい」
「実は……かなめ様に折り入ってお願いがございます」
「……キモイわよ、その言い方。
で……お願いって言うのは?」
「…………」
「……早く言いなさいよ司郎」
司郎は何かを決意した表情でかなめを見つめ、そのまま土下座した。
「かなめ! 俺のハーレムに入ってくれ!!!」
パシ!
土下座をしている司郎の頭にかなめの平手が飛んだ。
それは模範的なつっこみだった。
「……あんたねぇ。
いきなり何言い出すかと思えば……」
「いや……冗談とかそういうことじゃなくて
マジで言ってるんだけど……」
「マジならなおさら悪いわ!
頭打って妄想と現実を間違えちゃったの?」
「頭ならお前によくはたかれてるが」
「失礼ね……私のせいじゃないわよ?」
司郎はとりあえずさっき神社であったことを、包み隠さず説明することにした。
いつものように祈っていたら女神様(?)が現れたこと。
ハーレムの夢をかなえてあげると言われたこと。
死がペナルティの試練のこと。
そして、試練を乗り越えるため手助けが必要であること。
かなめは司郎のその話を黙って聞いていた。
「……あんた騙されたのね」
「へ?」
かなめはきっぱり言い切った。
彼の話し自体を疑うことはしない。
司郎はいつも軽々しく土下座をしているように見えるが、土下座をするときは正直で真剣である。
幼馴染であるかなめはそのことをよく理解していた。
「ほっときなさい……」
「え? いいの?」
「女神様(?)だとか、試練を乗り越えなきゃ死亡とか、現実にあるわけないでしょ?」
「いや……でも俺、女神様(?)が出てくるとこハッキリ見たんだけど」
「おそらく手品ね……
からかわれたのよその娘に」
「う~ん……そういわれれば……
そうかも?」
「そうそう……。そういった詐欺って言うのは、相手をしないのが一番なのよ?」
「うーんそうなのか?」
『そうですか?』
「「ん?」」
突然、二人の話に割り込んでくる声があった。
同時にかなめの身体全体に警戒信号が走る。
(なに……?!!)
それは、かなめにとって生まれて初めてのことだった。
それまで日常のゆるい空気で緩んでいた身体中の神経が、一瞬で緊張し緩めることが出来ない。
身体が自然に全力戦闘モードに変化する。
『あら……ごめんなさい?
驚かせてしまいましたか?』
「くっ……?」
かなめは身体の右側少し上空に緊張感の源を感じた。
そこに、司郎がさっき神社で話していた少女、”天城比咩神”が物理法則に反するように浮いている。
見た感じ、手品で浮いているのか、そうでないかはかなめにはわからなかった。
ただ、生まれてから一度も感じたことのない空気を、目の前の女神様(?)からハッキリ感じ取っていた。
(……ニンゲンじゃない?)
かなめはその強烈な気配をそう結論付ける他なかった。
「あ…どうも女神様」
司郎はまったく空気を読まずに普通に挨拶する。
その間の抜けた声を聞いて、かなめはちょっと緊張が緩んだ……がすぐに元に戻る。
「へ……へえ。
このヒトが司郎の言う女神様?」
『そうです。私が女神様です。
貴方は”宮守要”さんですね?』
「私の名前を知ってるの?」
『もちろん! ここら一帯私の管轄地域ですから』
「管轄地域?」
『神様的なものなんで詳しく説明できませんが。
まあ町内会長みたいなものですよ』
「……」
『緊張しなくても大丈夫ですよ?
危害を加えたりはしません』
「本当に神様なの?」
『本当です。自分の感覚を信じたほうがいいですよ?』
「……」
どうやら、目の前の女神様(?)は、かなめの”戦闘モード”に気づいているようだ。
しかし、それに反して緊張感のない口調で話しかけてくる。
かなめは身体の緊張を解く気にはなれなかった。
「……司郎に言ったことは全部本当ということですか?」
『もちろんです…』
「証拠は?」
『司郎さんの手のひらに”星”があるでしょ?
それが契約の証です』
かなめは司郎の手をとって見てみる。
確かに”星”マークがある……が。
「……これじゃあ証拠にはなりません」
『……信じられないなら、それはそれで仕方がないです』
「え?」
『もう試練は始まっちゃってますからね。
彼が試練に失敗すれば死亡……
成功すればそのままというだけです。
……もともと貴方とは無関係ですね?』
「な!」
かなめは目の前の女神(?)を睨み付ける。
それを軽く流した女神(?)は、涼しい顔でニコニコ笑ってる。
「いくらなんでも無責任なんじゃないですか?! その言い方!!」
『う~ん……。
そんなこと言ってももう試練は止められませんし
仕方がないですよね?』
「仕方ないですまないでしょ?!」
『じゃあ…あなたが助けてあげればいいんじゃないでしょうか?』
「それは……」
『ハーレムはお嫌ですか?
それなら、彼は他の人を探すしかないですね。
そうしなければ死んじゃいますし……』
「え? それどういうことっすか?」
それまで二人の会話を眺めるだけだった司郎が声を出す。
『……ああ、説明してなかったですか?
あなたが試練で出会うことになる女の子は全部で11人。
……でも、一年後の今日、最終的に12人の女の子をハーレムに入れていないと
やっぱり問答無用で”死亡”なの……』
「「な!!」」
二人は開いた口がふさがらなかった。
どうやらまた忘れてたらしい、本当かどうか怪しいもんだが。
それを聞いて司郎は情けない声をあげる。
「……また説明忘れですか?
勘弁してよ女神様……」
『ごめんなさいね? 最近忘れ物が多くて、フフフ……(テヘペロ)』
「……」
かなめは黙って女神(?)を睨み付けた。
一見無害そうな女神の瞳の奥に、少しだけ悪意のようなものを感じ取っていた。
「……もうどうにもならないんですか?」
『はい……無理ですね。
試練は止まりません』
「……嘘じゃないんですね」
次の瞬間、かなめの最高速の拳が女神(?)に向かって飛ぶ。
「…………」
脅しのつもりのない、明確な全力攻撃。
それは確実に目の前の少女の胸の辺りを打撃するハズだった。
だが……拳は空を切っている。
相手が避けたわけではない、かなめが攻撃軌道を逸らしたわけでもない。
拳がかなめの意思に反して軌道を曲げたのだ。
(……当らない…か。
いや…当てようとする事そのものが禁じられてるのか…)
『どうですか? 私が本物の女神だって理解しましたか?』
「……」
『だめですよ?
我々と人間とは”霊格”が違うんですから。
霊格が違えば攻撃という概念そのものが無効になります』
「……そのようですね」
かなめはため息をついた。どうもこの女神にはどんな抗議も無駄なようだ。
ならばかなめのやることは決まっている。
「司郎……ハーレム作るわよ」
「え?」
「それしか道はないでしょ?」
『それは貴方もハーレムの一員になるということですか?』
「……ええ。そういうことでいいわ」
かなめは何かを決意したような真剣な表情をしている。
『それでは……
お二人の話もまとまったと言うことで、改めて宣言しますね?
一つ、上座司郎は、一年間・十一の試練の突破をもって、十一人の女性をハーレムに入れることができる。
二つ、もし前述の試練を突破できなかった場合、上座司郎は死亡する。
三つ、一年後の今日、前述の十一人を含む十二人の女性がハーレムにいなかった場合、上座司郎は死亡する。
四つ、前述の十二人のうちの一人は、上座司郎が自由に相手を決めることができる。
五つ、上座司郎はハーレムの一員である女性の”特技”を己のものとして行使する能力を得る。
以上が上座司郎のハーレムマスター契約となります』
―――こうして目の前の女神が、
司郎のこれから一年間に及ぶ試練の日々の、幕開けを告げたのである―――
<美少女名鑑その1>
名前:宮守 要(みやもり かなめ)
年齢:17歳(生年月日:5月28日 ふたご座)
血液型:O型
身長:159cm 体重:50kg
B:78(B) W:58 H:85
外見:赤みがかったショートカットのアスリート美少女。
性格:面倒見がよく姉御肌で周囲(特に女子)に慕われている王子様系女子。
幼馴染の司郎には結構強く当たるので、それを見た人からは近づき難い怖い人に思われている。
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