第八話 温泉へ行こう!

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第八話 温泉へ行こう!

『いやあ見事、第三の試練を乗り越えましたね司郎君』 拳銃男”橋山直人”によって起こされた三浦家襲撃。 その後処理が警察によって行われたのち、落ち着いたときに”姫ちゃん”はそう言って現れた。 周囲が暗転する非現実的な現象を体験し、やっと藤香さんは俺の言っていることを事実と理解したようだった。 「まさかこのようなことが起こりうるとは、わたくしもまだまだ世間を知らないようですわね」 そう言って驚く藤香さんに”姫ちゃん”は問いかける。 『ハーレムマスター契約の話は、司郎君から直接聞いてますね?  ならば―――』 「わたくしは司郎君のハーレムに入りますわ」 ”姫ちゃん”が全て言い切る前に藤香さんは答えた。 「彼には命を救われました。  ならば―――、それ相応の対価を支払うのが経営者としての矜持です」 『さすが―――、貴方ならそう答えると思っていました』 「当然ですわ―――、何よりわたくし―――」 藤香さんは俺を見つめるとはっきりと言う。 「彼にならこの身を任せてよいと考えています」 その彼女の発言に、かなめは無論、日陰ちゃんも、香澄も顔を赤くして驚いた。 『あらあら―――、これはなかなかに見込まれてしまいましたね? 司郎君―――。  こうなった以上、貴方はそれ相応の男性にならなくてはなりませんよ?』 「―――う、努力します」 その俺の言葉を聞いて、藤香さんは嬉しそうに微笑むのだった。 ―――そして、 ----- 藤香さんが俺のハーレムに入って1ヶ月が過ぎた時、俺は自分の部屋で顔を引きつらせて正座をしていた。 俺の周りには―――、 少し困った表情のかなめ―――、 「男の子の部屋―――、司郎君の部屋―――」と赤い顔で繰り返し呪文のように唱えている日陰ちゃん―――、 怒り心頭で俺を見下ろしている香澄―――、 何が可笑しいのかただただ微笑んでいる藤香さん―――、 ―――という四人が集合している。 「…いやあ、ちょっと暑くない?  みんな―――」 俺がそう言うと―――、香澄に思い切り睨まれた。 ―――この状況が何なのかはっきり言うと。 ようは、今俺は絶賛修羅場ってるのである。 「え~~皆さん」 香澄がそう言って皆を見回す。 「今日ここに集まってもらったのは他でもありません。  ―――とても残念なことですが―――」 香澄はもったいぶるように一息深呼吸すると、はっきりと言った。 「”ハーレム(わたしたち)”の中に裏切者が出ました―――」 そう香澄は宣言する。 「む―――」 「男の子の部屋―――、司郎君の部屋―――(あわわ)」 「―――(ニコニコ)」 かなめ以外はその香澄の発言には特に反応しない。 そのかなめに向かって香澄は言う。 「ねえ? かなめ―――」 「―――」 かなめは口の端をゆがめつつ言う。 「いや―――別にあたしは―――、  リーダーとして、みんなのためにも犠牲になろうと思っただけで―――」 「リーダーって何ですか?  ―――っていうか、”犠牲”って”二人だけの温泉旅行を楽しむ”ってことですよね?」 香澄がそう言うとかなめは言葉を詰まらせた。 「あらあら―――(ニコニコ)」 やっと反応を示す藤香さんが、心底楽しそうな表情で言う。 「それは確かに”抜け駆け”ですわね」 そう―――、 今から三日前、俺は天城商店街の福引で二等を当てた。 その景品こそ”温泉旅行ペアチケット”だったのだ。 俺を手にした時ちょうどかなめもそばに居て―――、 「司郎―――これがみんなに知れたら、間違いなく戦争が起こるわ―――。  このことは私と司郎だけの秘密にするのよ―――」 そう言って思いっきり、痛みを感じるほど強く肩を掴まれたのである。 まあ、すぐバレたけどね(←口を滑らせた馬鹿)。 それで―――、この修羅場というわけである。 「さて―――とりあえず。  かなめはリーダー剥奪―――、なんのリーダーかは知らないけど。  カースト最底辺格下げね―――」 「うぐ―――」 「そして―――このチケット」 そう言って俺が手にする温泉ペアチケットを見る香澄。 「―――このチケットは誰が使うかですが」 香澄はまずかなめを見る。 「―――かなめはダメね」 「なんでよ!!」 かなめは慌てて抗議する。 香澄は冷酷は表情で言う。 「元リーダー、最底辺は黙っていなさい」 「ひど―――」 「で、藤香さんは―――別に行きたくないですよね?」 その香澄の言葉に帆の笑んだまま藤香さんは言う。 「あら? なんでそうなるのかしら?  わたくしとて、司郎君との温泉旅行は好ましいですわ。  もしかして、これが新人いびり? 新人いびりなのかしら?」 藤香さんは心底楽し気にそう言う。 「むう―――それなら」 香澄は次に日陰ちゃんを見る。 「男の子の部屋―――、司郎君の部屋―――」 いまだに、思考が明後日に飛んで帰ってこない日陰ちゃんを見て、かわいそうなものを見る目をした香澄は、 「日陰ちゃんをハブるのは不味いね―――」 そう言った。 「じゃあ、私―――日陰ちゃん―――藤香さんの、三人の中で決めることになるのか」 「私は? マジでハブり?!」 かなめがそう抗議するが香澄はあえて無視した。 「どうやってそれを決めるかだけど――――」 ―――と、不意に日陰ちゃんが、正常な思考を取り戻して言う。 「美術対決は…どうでしょうか?」 「いや!! それ日陰ちゃんの得意分野だよね?!  日陰ちゃんて結構言うこと言うんだね?!!  びっくりだ―――!!  却下―――」 日陰ちゃんはシュンとして俯く。 その次は藤香さんが発言する。 「経済力での対決はどうですか?」 「いや!! あんたも何言ってんですか?!!  それ間違いなくあんたが最強だろうに!!!!  却下―――」 藤香さんは舌を出しておどけて見せた。 ―――と、不意にかなめが発言する。 「これは仕方がないから格闘(バトル)で決めるしか―――」 「最底辺は黙りなさい―――、  却下―――」 「ひど―――香澄ひど―――」 かなめはむくれて寝転がった。 「むう―――みんな自分勝手な―――、  これは、公平にじゃんけんで決めるしかないのか?」 そう香澄が言ったとき、再び藤香さんが口を開く。 「それは―――、面白…  げふんげふん―――」 ちょっと藤香さん? 今、”面白くない”って言いかけてませんでした? 俺は心の中で突っ込みを入れる。 「ここはやはり、ハーレムの王たる彼―――、  司郎君に決めてもらったらどうでしょう?」 「「「―――」」」 その藤香さんの言葉に女の子たちの視線が俺に集中する。 怖いよ君達―――。 「いや―――、俺は別に誰でもい―――」 そう言いかけると―――、 「―――」 怖!!!!!! 睨まれた!!!!! 唯一微笑んだままの藤香さんは楽しそうに言う。 「さあ!!!! 決めてください!!!!  誰と二人っきりの旅行に行きたいのか!!!!」 (この人―――楽しんでないですか?) 俺は全身汗びっしょりで顔をひきつらせた。 その時、俺は心の中―――超高速で思考する。 <ケース1:かなめと行く> 香澄激怒、日陰ちゃん号泣、藤香さん? <ケース2:日陰ちゃんと行く> かなめ&香澄俺を折檻、藤香さん? <ケース3:香澄と行く> かなめ激怒、日陰ちゃん号泣、藤香さん? <ケース4:藤香さんと行く> かなめ&香澄俺を折檻、日陰ちゃん号泣 ―――うん、いまいち藤香さんの心が読めないのは置いておいて、たぶんすべてのケースで俺は死ぬ。 ならば―――、 「このチケットは―――」 「「「「このチケットは?」」」」 俺ははっきりと言った。 「養父(とう)さん、養母(かあ)さんに使ってもらう」 「「「!!!」」」 藤香さんを除く全員がその俺の言葉に驚いた。 「それは―――」 「まあ、惜しくはあるんだけど―――、かなめや日陰ちゃん、香澄や藤香さんが喧嘩をするのは見たくないし。  やっぱハーレムの王ならみんなに平等にしないと―――。  それに、いつも養父(とう)さん、養母(かあ)さんにはお世話になってるからね」 「―――」 女の子たちは神妙な表情で俺を見る。 まあ、女の子との二人っきりの旅行はマジ惜しかったが仕方がないよね。 「まあ―――いいんじゃないそれで」 「仕方が…ないです」 「むう―――それが一番か」 かなめも日陰ちゃんも香澄も納得した風で頷く。 そして―――、 「ふふふ…、司郎君ならそうおっしゃると信じてましたわ」 そう藤香さんは言った。 「ソレって、わかっててからかったんです?」 俺が抗議の声をあげると。 藤香さんは―――、 「実は商店街のくじは、わが社が企画したものでして、そのチケットを用意したのもわたくしの会社なのです」 「え?!!」 それは驚愕の真実。 「司郎君があてたのは偶然でしたが、それをどう使うか―――しっかり観察させていただきましたわ。  結果はわたくしの思った通りでした」 「そうだったんですか」 それを聞いて香澄は苦笑いする。 「まあ―――結果はこうなったけど。それが最善よね。  温泉は惜しかったけど―――」 その香澄の言葉に藤香さんは微笑んで答える。 「あら―――温泉はいきたくないのですか?  ほらここにこんなものが―――」 そう言って藤香さんが胸元から出したのは。 「チケット? もう一枚?」 「はい、こちらは、先ほどとは別の温泉の五人分宿泊チケットです」 「な?!!!!!」 あまりの事に驚く俺たち。 「これで仲良く全員で温泉につかることが出来ますわね?」 ―――そう、藤香さんは悪戯っぽい微笑みを浮かべたのである。 ----- あの修羅場から一週間後、俺たちは岐阜県は森部市の”権現温泉”京へとやってきていた。 マイクロバスに揺られながら、案内人役である藤香さんが俺たちに話を聞かせる。 「この森部市の森部山には、権現様と称される女天狗様が祀られております。  その権現様は子供の守り神であり、その産湯として地から温泉を湧き出させたのが、権化温泉の元となったと言われております。  今から行くのは”湯之源”温泉―――、湯の源と書いて”ユノモト”と呼びます」 そうして説明が続くうちに、温泉街へとマイクロバスが入っていく。 その中の一つの温泉旅館の前でマイクロバスは止まった。 「つきましたわ”湯之源温泉”―――、支配人は”湯之源泉太郎(ゆのもとせんたろう)”さまです」 (湯の源泉?) 俺たちは心の中でそう考えた。 「よくいらっしゃいました。  上座司郎様御一行ですね?」 「そうっす! よろしく!!」 俺は元気よくおっさんに挨拶する。 おっさんは近くに控えている仲居さんに指示して俺たちを部屋へと案内した。 「うわ~~~いい景色ね!!」 そう言ってかなめが窓を開ける。 それに香澄が答える。 「そうだね~~~って言う話は置いておいて―――、  なんで司郎君もこの部屋にいるの?」 「なんだよ、俺だけハブるのか?」 「そんなこと言ってないでしょ。  ここは女の子達の部屋じゃないの?」 そう俺を睨む香澄。しかし、 「いいえ?  この部屋一室しか予約しておりませんわ」 そうにこやかに藤香さんが言った。 「マジ?!!! ―――て、何考えてんですか藤香さん!!!」 「何って―――、わたくしたちは司郎君のハーレムの一員でしょう?」 「そ、そうだけど―――」 香澄がうろたえた表情で藤香さんに抗議している。 まあ俺としては最高の部屋だと言えるが。 「大丈夫よ、香澄―――」 不意にかなめが香澄に笑いかける。 「司郎だって、さすがに女の子が本気で嫌がることはしないし―――、  最悪、簀巻きにして転がしておけばいいんだし―――」 「あ、そうか―――」 あっそうか、じゃねーよ!!! 酷いぞかなめ!!! 俺の抗議を普通に無視しつつかなめは言う。 「ほいじゃ、早速温泉に行こうか!!!」 「「「お~~~」」」 俺たちは嬉しそうにそう答えたのである。 ----- 「で? なんでまたここに司郎君がいるのよ」 俺を脚で踏みつけながら、バスタオルで体を隠した香澄が言った。 俺は香澄の足元で、カエルのような格好で抑え込まれている。 ここは湯の源温泉―――露天風呂である。 「それは香澄―――、ここが混浴だからだよ」 俺がそう言って笑うと、香澄はぐりぐりと足で俺を踏む。 「ああん」 「変な声出すな」 香澄は俺を踏んづけたまま周りを見る。 「っていうかかなめ!  何、前隠さず髪を洗ってるのよ!!」 「うん? なにが?」 「何って―――司郎君が見てるわよ?!」 「そう―――、まあ司郎だし―――」 そう言って髪の毛を洗い続けるかなめ。 「羞恥心がないのか!!!  ―――って、そこの藤香さんも何をしてるんです!!!」 俺がそちらを見ると、そこにヴィーナスがいた。 「何、月明かりの下でポーズとってんです!!!  それも全裸で―――!!!」 「フフフ…何を言ってますの?  このわたくしの芸術的肢体を隠す必要がどこなるというのですか?」 「あんた等、裸族か!!!!  そこの顔を半分湯につけて真っ赤になってる日陰ちゃんを見習いなさい!!!」 そう―――、日陰ちゃんはさすがに恥ずかしいのか、顔を温泉に沈めて真っ赤になっている。 「すみません…(ブクブク)」 香澄はもう一度かなめの方を向く。 「かなめ! 上座司郎係を放棄するな!!  少しはこの状況に突っ込みなさいよ!!」 「う~~~ん?  まあ、いい後継者が出来たなって―――」 「勝手に引退するな!!!  私以外ツッコミ役がいないのか?!!!」 その言葉を聞いた俺は、元気に手をあげた。 ぐりぐり踏まれた。ああん、癖になりそう。 「ふう―――香澄、もういいから司郎を開放しなさい。  司郎が風邪ひくでしょ」 「ぐ、何私が悪いかのように言って―――」 「いいから―――」 「むう―――」 仕方がないという感じで香澄が俺を開放する。 ―――という事で、俺たちは仲良く並んで温泉につかることになった。 「むう、なんか私だけが馬鹿みたいじゃ…」 ぶつぶつと不満を言い続ける香澄ももうバスタオルを外す。 「いや~~~大きいおっぱい、小ぶりなおっぱい。  ここは天国だな!!!」 そうみんなの中心にいる俺が言うと、かなめがため息がちに言う。 「はいはい―――、そういうことを言わない。  また日陰ちゃんの顔が温泉に沈むでしょ?」 「ごめんなさい…(ブクブク)」 ―――と、不意に香澄が言う。 「それ、結局跡が残っちゃったね」 「ん?」 それとは当然、腹の銃弾痕である。 「まあ、男の勲章だな!!」 「…そうかもしれないけど。やっぱり私は―――」 かなめも日陰ちゃんも香澄も藤香さんも真剣な表情で俺を見る。 俺は笑って答える。 「―――大丈夫、俺は死なないよ?  皆がいるのに死ねないだろ?」 皆が少し笑う。 ―――月夜の下、俺は幸せに囲まれながら湯につかったのである。
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