言わせて

6/8
前へ
/15ページ
次へ
「寝てるの?」  言われて跳ね上がる。  ガタンと派手に音を立てて体を起こすと、そこにはジャージ姿のひなが居た。 「え、何で!?」 「こっちのセリフ」  見下されてとにかく頭の中を整理する。  寝てはいなかったが、半分くらい微睡んではいた。  いつの間にか部活中の喧騒も消えていて、静かすぎる教室はやけにドキドキする。 「……世古?」  窺うように話し掛けると、ひなは自分の机の中からノートを出してから振り返った。  あ、忘れ物を取りに来ただけ……俺を探してくれたなんて淡い期待が消えてショックを受ける。 「……あれは…………本気?」 「何、が?」  三列向こうに立ったまま動かないで言われて俺は首を傾げた。 「自分が言ったくせに……」  唇を噛み締めた姿を見て立ち上がると、ひなは逃げるように教室を飛び出す。 「ちょっ!待っ!!」  伸ばした腕はギリギリ届かなかった。  カバンを引っ掴んで急いで追いかける。  邪魔なスリッパは脱ぎ捨てて、階段は手すりを掴んで滑り降りて、残り五段ほどはそのまま勢いよく飛び降りた。  じん、と足の裏が痺れる。 「くっそ…………ひなっ!!」  また走りながら叫ぶと、ひなは少し先でやっと足を止めた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加