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③旅行じゃねーよ!
新幹線。隣に座ってるのは出口輝、目の前は壁だ。
「なんか、旅行みたいだね。」
嶋佐さんは子どもが熱を出し、急に休んでしまった。本当は嶋佐さんと行くはずだったのに、なぜかコイツと俺と2人でロケハンすることになった。
普通、タレントとかそれと同等の人はロケハンには来ない。
「違います。旅行じゃなくて仕事です。ロケの下見です。」
俺は、お茶を飲みながら楽しそうに笑う出口をあしらった。
「縁くん、仕事ならもっと楽しまなきゃ。」
「え?」
「僕たちは、生きてる間働く時間の方が多いんだからね。」
コイツはポジティブの向こう側にいる。
ますます嫌いだ!!
コイツが俺と2人でロケハンに来た経緯はこう。
昨夜、俺は頭皮をほぐされた気持ちよさで一瞬で落ちてしまい、気がついたら。
「おはよ、縁くん」
薄明るい、夜が明けきらない知らない部屋にいた。聞き覚えのある声のする方を見て、自分の体に
「な!なんで!!?」
驚愕した。
俺は、服を剥がされてボクサーパンツ1枚になっていた。
「全然起きないから、連れて帰ってきちゃった。」
「服!!」
俺は、なけなしのタオルケットに身を包んだ。
「しわになるといけないから脱がせたよ。」
「はあ!?」
「洗っといた。そこにあるよ。」
コイツ、余計なことを!!
「シャワー浴びたかったら、使って良いけど。」
シャワーは、浴びたい。背に腹はかえられん。
「か、借ります。」
「一緒に入ろうか?」
「はあ!?」
俺の反応を見て出口は楽しそうに笑っていて。
「タオル、洗面所の棚にあるから好きに使って。」
なんて優しさを見せてくる。
「ありがとう、ございます。」
俺は、洗ってもらった自分の服を鷲掴みにして脱衣所に駆け込んだ。
シャワーを浴びながら頭を触られた心地よさを思い出す。なんか、してやられた気分になってくる。眠りこけてしまったあげく、知らぬ他人の家に連れてこられようとは…。しかも、風呂まで借りて洗濯までしてもらうなんて。
風呂から上がると、無印良品の紙パックに入った新しいボクサーパンツが置いてあった。サインペンで“使って”と書いてある。
「え」
俺の履いていた方は、どこにもない。いや、そうじゃない。おそらく稼働している洗濯機の中だ!
「え!?」
何の躊躇いもなく、他人のパンツを自分のものと一緒に洗ってるというのか!?なんでそんなことができるんだよ!!?
脱衣所の引き戸が開いた。
「あ、それ下着使って。買ったばっかりだよ。Mサイズだから。大丈夫だよね、たぶん。」
明らかに視線が……
「ふふ。」
軽く笑って、出口が引き戸を閉めた。
絶対見られた。小さいとかなんとか思ったに違いない!せめて、せめてタオルを巻いておけば良かったんだ。
クッソ!クソ!クソ!クッソ!!
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