③旅行じゃねーよ!

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それにしても、コイツ…。今日1日空いてるって、貴重な休みだったんじゃないのか。 「あの、本当に良かったんですか?」 「ん?」 「今日、貴重な休みじゃ…。」 膝の上に置いた手を握られ、肩に頭を乗せられた。 「縁くんとこうしていられるなんて、最高の休みだよ。」 髪からヘアワックスのいい香りが漂ってきて、鼻腔から脳に突き抜ける。心臓がドキドキしてきて、出口のとろんとした目に見られた俺は、心臓が口から飛び出しそうになる。 コイツ、32で、オッサンなのに、なんで俺にこんな甘え方すんの?しかも俺、顔熱いし…。 「縁くん耳まで真っ赤だね。」 席の目の前は、木目のカッティングシートが貼られた壁。通路を挟んだ隣の座席シートには誰もいない。 顔が近づいてきて怖くて硬く目を閉じた。 唇に、柔らかい感覚。それにあたたかさ。 「縁くんがかわいいせいだよー。」 出口が顔を離して、目を細めて唇の端を上げた。 つまり今キスされたってことだ。 俺の人生、……終わったあぁああぁあっ!!! 嫌だ!こんなの!こんなのないよ!!! 体が震えて涙が溢れてくる。 「縁くん?大丈夫?」 大丈夫なわけあるかー!! 立木縁20歳。恋人いない歴20年。顔が可愛くて男だと思えないと言われ続け、恋を何度も諦め生きてきた俺は今日、この顔のせいで男にキスされた。どーなってんだよ神様!俺には、ファーストキスの相手さえ選ばせてもらえないのかよ!! 「……ひどい。俺…」 「ん?」 「なんで…」 だいたい、そういう関係じゃないし、これから仕事だし! 「縁くん、初めてだった?」 溢れる涙を止めることもせず睨みつけた。 「……!」 でも堪えろ。コイツは、大事な取材相手だ。嫌いだけど、我慢しろ! 仕事関係なかったら、間違いなくコイツのことギッタギタにシメあげてるんだけどな。俺はこう見えて極真空手三段だったんだよ、舐めんなよ。 「そういう顔もするんだね。かわいい。」 新幹線のインフォメーションが流れる。上野に着いた。上野から東京までは10分とかからず着いてしまう。 「そろそろか。人が多いから迷子にならないように手繋いで歩こうか。」 握られた手はまだ、解放してもらえない。 「縁くん小さいから心配だな。」 「あの、それはだいじょ…」 「多分、大丈夫じゃないと思うよ?」 俺だって、立派な大人だ。迷子になんかなるわけあるか。てか、むしろ、コイツと積極的に離れたい。 『次は東京。お忘れ物のないよう…』車内アナウンスが流れ、乗客が、デッキに向かい始めた。 「久しぶりだなあ。みんな元気かなー。」 出口が楽しそうに伸びをした。
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