④こんなはずじゃなかった

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それは1度目のロケ。 21時の予約客から、取材は始まった。カットとカラー、トリートメントのコース。カラー待ちの間に話を聞いたり、出口の接客風景を撮影したり。俺はカメアシをしながらその様子を見ていた。お客は、20代の女性で常連客。出口は終始笑顔で、接客している。 俺は鏡とかに映り込まないように死角に入って、出口のハサミの動くのを時々見ていた。カメラマンの小田さんがその雰囲気をゆっくりしたカメラワークで追いかけている。 繊細な指の動きには見惚れてしまう。単純に俺が指先にフェチズムを感じる性癖なのかも知れないが、出口のその動きと、真剣な目つきにはなぜか心拍数が上がる。仕上がりの美しさを知っているからだろうか。何か魅力を感じてしまう。 今まで近づいた時に思うのは、俺のこと、なんとなくガキ扱いだし、いけ好かないのに。 ロケが終わったのは24時ごろ。 ライトや音声などの機材を車に積んでいる時だった。嶋佐さんと小田さんは、雑感の撮影をしていて、俺は1人で片付けをしていた。 肩をトントン叩かれて。 「ご飯食べない?縁くん。」 て。出口がお茶を差し出してきた。 「会社戻るので。それにこんな遅くにやってるとこなんか。」 「ふふ、じゃあ、終わったらここに戻っておいでよ。」 一緒にロケハンに行ってもらってからなんとなく借りがあって誘いを断れない気分になっていた。 「明日、早いの?」 「いえ、今日が遅かったので、明日は休みで。」 「だったら問題ないね。」 「え」 「うちで食べよう。簡単なものなら作ってあげる。泊まって行きなよ。」 いや、俺、了承してないけど。 「待ってるね。」 頭に手を置かれた。優しくて、あったかくて、嫌な気持ちはさほど無かった。 なんで…。 嫌なヤツなんだぞ?アイツに会いすぎて、なんか、俺の心の距離感おかしくなってるんじゃないか? 遠目で見ている間の方が良かった気がする。ただ、雰囲気だけで嫌っていられた。 今、良いところがたくさん見えてきて、嫌いな理由を探さないといけない。 そもそもアイツ、本当に俺のこと好きなの?冗談で騙そうとしてるだけだろ? 俺は、男も女も関係なく、恋愛なんか絶対しないって決めてるんだから、どんなに近寄ってきても無駄なんだぞ。だいたい、どういう意味で好きなんて言ってるんだよ。 機材を黙々と片付けながら、店に入って行ったアイツを目で追った。掃き掃除をしながら嶋佐さんと話したりしてずっとにこやかだ。 アイツはずっと笑ってる。アイツのフラットな状態はあれなんだ。なんか、ずりいわ。
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