④こんなはずじゃなかった

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会社から、美容室に戻ってきた。 俺は、出口の言うことを聞いてしまっている。別に断っても良いはずなのに。 「お、来た来た縁くん。」 「ご飯食べたら…帰りますよ、俺。」 「遠慮しなくて良いって。」 「遠慮じゃなくて。」 俺は、美容室には入らずにドアの前に立っている。出口が荷物を持ってきて、外に出て、鍵をかけた。 距離をとって歩いていても、2、3歩先で必ず待っているから、撒いて逃げることはできない。 「何食べたい?」 「…特には、注文はありません。」 「じゃあ、オムライスな。」 「え?」 「好きでしょ?ロケハンの後行ったレストランでオムライス、美味しそうに食べてた。かわいかったなあ。」 「……。」 だから、その“かわいい”ってなんだよ! 「僕、オムライス得意なんだよー。」 ポケットから鍵を取り出しながら言った。 この前は連れて来られただけだからよくわからなかったけど、マンションまで店から1分くらいしか歩いていない。 部屋に入り、手を洗わせてもらった。脱衣所の洗面台だ。俺、ここで裸見られたんだよな。なんて、嫌な記憶が蘇る。 「シャワーあびたかったら、どうぞ。着替え用意しておくよ。」 「いえ、良いです。」 「汗流しちゃいなよ。頭皮、ベタベタしてるの髪の毛によくないんだよな。禿げても知らないけど?」 出口が、俺のボディバッグを俺の体から外す。 「バッグ預かっておくよ。シャワー浴びちゃって。オムライス作っておくね。」 シャワー浴びなきゃ出られない。 そんな状況にされてしまった。仕方がない、シャワー浴びよう。でも、この前みたいに見られたら…。いや、もうシャワー浴びちゃおう!! 服を雑に脱いで、浴室に入った。と、同時に脱衣所の引き戸が開く音がした。タイミングちゃんと見てくれてたんだ、と。少し感心してしまう。シャワーからお湯を出して頭を洗う。気持ちがいい。全身に浴びせると1日の汗がこそぎ落とされるようだ。シャワーの音に混じって、ゴウンゴウンと、機械音が聞こえてきた。 「……。」 手にシャンプーを取って泡立てると美容室と同じ香りがした。 脱衣所から水が勢いよく出される音がする。 頭をわしゃわしゃと洗う。美容室と同じ匂いに包まれて、前回、出口にされたヘッドスパを思い出す。圧して来る指の強さや、頭のツボを的確に押す感覚、襟足をなぞる心地よい刺激。自分ではできない。確かに気持ちよかった。人気のメニューだとわかる。寝落ちしてしまった、俺には危険な施術だけど。 シャワーを浴びると脱衣所からの機械音も少し大きくなった気がする。 「……。」 この音、なんか嫌な予感するんだよな。 トリートメントをワンプッシュして髪に馴染ませてから、ボディーソープを何度かプッシュした。メントールの香りが鼻に抜ける。泡立てて体に滑らせる。シャワーを頭からかけて、全身洗い流し、最後に洗顔して、もう一度頭からシャワーを浴びて浴室の扉に手をかけた。 脱衣所にいないよな…。 疑いながら、ゆっくりドアを開ける。
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