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いただきますと手を合わせてオムライスをスプーンで掬って口に入れた。
硬めの卵と胡椒のきいたガーリックライス。ソースはレトルトのハヤシラスソースがかかっていた。それらが口の中で合わさって
「うまー。」
思わずそう言ってしまった。
「良かった。」
目の前にはニコニコ笑う出口がいる。俺はハッとして嫌いなヤツが作ったオムライスだったことを思い出した。
「縁くん、兄弟いるの?」
急に?なんで?…あ、世間話か。
「兄が3人います。」
「えー。男ばっかなの?みんな似てるの?」
「兄たちは、父に似ていてゴツくてゴリラみたいです。」
「お父さん、何やってる人?」
「空手の師範です。」
うちは極真空手一家だ。立木道場は県内トップクラス。父は道場の師範をしていて、兄3人も指導者をしている。俺が、父を殴って蹴ったのは、大会で碌な成績を残せなかったことを執拗に責められたからだった。フルコンタクトのため、相手の蹴りが鳩尾に入り、その場で嘔吐した挙句、意識を失った。父は、道場に戻るやいなや“情けない恥晒し”と俺にブツクサ文句を垂れはじめて、気の短い俺は、フルコンタクトの試合の如く父をボコボコにしてやる勢いでかかっていったのだ。最終的には逆にボコボコにされ、段位剥奪、破門、道場出禁になってしまった。実家を勘当されたわけでは無いが、俺は高校進学に合わせて、母の実家に住み、専門学校入学に合わせて一人暮らしを始め、もう殆ど実家に近寄っていない。
「へえ。縁くんから想像できない。」
「俺は、何もやってないんで。」
出口はオムライスを口に運びながらも俺を見て来る。俺は、目があわないようにオムライスを見ながら口に運んでほろよいを飲んだ。
「縁くん恋人はいる?」
「いません。」
「作らないの?」
「作りません。」
顔と名前のせいもあって、女子たちからは、ちゃん付で呼ばれ続けた学生時代。いざ、好きな子ができて告白しても『ゆかりちゃん、友だちでいさせて。』そんな返事ばかり返ってきて、恋愛事態を諦めたのだ。
「なんで?」
「…いらないんです。」
眠いのもあって、ほろ酔いの缶半分くらいを飲んだ頃には酔いが回ってきていた。だから、いつもより少しだけ饒舌で
「付き合ったからって、何が偉いんですか?色恋で持て囃されて何が楽しいんですか?恋愛バラエティとか。クソみたいじゃないですか?だいたい、浮き足だったカップル見るとイライラするんですよ。」
「ひがみ?」
「そうかもしれませんね。だって、ずっといないから。告っても、断られるから。もう、諦めましたよ。構いませんよ、一生童貞でいてやります。」
「ふふ。でも、男からはモテたりしない?」
「は?」
「僕は、好きなんだけどな。縁くんのこと。」
冗談言うな。恋愛バラエティに出てたヤツが偉そうによー。からかって遊んでやがる。癪に障る、ムカつく。
「どうせ、顔と体しか見てないんでしょ?」
俺は、男も女も関係なく絶対に恋愛なんかしない。
「体?」
「だってこの前、風呂上がった時に…。」
そう、下半身をじっくり見られていた。
「だとしたら?」
「は?」
なんだその質問は?
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