81人が本棚に入れています
本棚に追加
まるで首に縄をつけられたような気分だ。
「美味しいね。」
「はい。」
無理やり連れて来られたのは、ソースカツ丼屋だった。
「ここ、高校くらいの時によく来てたんだ。」
「へえ。」
俺は疲れすぎていて頭も重いし、食欲なんか全くなかった。だけど、せっかく食べるのだし味は美味しいからゆっくり咀嚼していた。
「部活の後に来て食べてたんだ。バスケ部だったんだけどさ。すごい走るからもう、お腹空いてさ。」
「へえ。ポジションはどこだったんですか?」
多分1番目立つポジションなんだろうな。
「え?」
「え?」
「いや、縁くん僕に興味あるの?」
は?俺だって気い使って話くらいきくっつーの。
「出口さん背高いから、センターですか?」
無視して質問した。
「縁くん、バスケ好きなの?」
「…別に。体育くらいしかやってません。」
ダメだ、歩み寄りたくない気持ちになった。もう良いやと思って、カツを頬張る。
「バスケ部だったころの友だちがALSになっちゃってさ。」
「…?なんですか?」
聞いたことはあるけど身近ではない単語だ。
「筋萎縮性側索硬化症って言う難病で。」
「…大変ですね。」
「まあ、訪問型の美容師やろうと思ったのはそいつがきっかけだよね。アイツには、綺麗でいて欲しいっていうか。なんか、病気になって引きこもりだして、服も髪も気にしなくなっていってさ。」
そんな風に話しながら、味噌汁を口に運んでいる。
「そういうの寂しいよねー。」
俺は元々オシャレじゃないからわかんないけど…。まあ、人目くらいは気にはするか。
「そういうの、嶋佐さんに話したら良いかもしれませんね。」
「あ、そうだねー。アイツ出たがりだからうってつけだな!訪問はアイツに出てもらおっか。」
なんか、その人の話してる今この瞬間、1番楽しそうなんだが…。まあ、友だちの話だからな。仕方ないけど。
「今日、本当はそいつの予約入ってたんだけど、昨日、体調悪いって連絡くれて。アイツの日は、1日アイツの施術に充てるからさ。今日、空いちゃったんだよねー。」
「お見舞いとか行ったら良いじゃないですか?」
「アイツ負けず嫌いだから、今日は会わないほうがいい。」
「……。へえ。」
会ったこともないその人に、少し妬いているような感覚になる。
ん?え?なんで?
「あ、安心して。」
「え?」
「アイツ、女だから恋愛対象外。」
「はあ?」
俺の気持ちを汲み取ったかのようにニコニコしながら言ってきた。
別にお前の恋愛なんか俺に関係ねーし。
「ね?まだ、時間ある?」
俺は休みの日は殆ど家でゲームしてる。別にそれに熱中してるわけじゃなく惰性でやってるようなもんだから暇っちゃ暇。
「あ、はい。」
「じゃあ、遊びに行こう。」
「は?」
俺、あんたの友だちじゃねーけど。
最初のコメントを投稿しよう!