⑤休日なんて聞いてない!

4/4
前へ
/153ページ
次へ
ボールはネットから地面に落ちて 「また、僕の勝ち。」 出口が楽しそうに拾った。 「ずるいってー!!」 出口がボールを拾って俺に渡してくる。 「今度が最後ね。いい?」 「勝つから良いよ。」 「へえ。」 3ポイントラインに立つ。 「これで、あんたとサヨナラだ。」 「そうなったら少し寂しいね。」 「俺はせいせいする。」 絶対に勝つ。絶対にシュートを決める。 「来い。」 だから、全然隙が無いんだよ。けど、道は開ける。右に見つけた微かな隙に飛び込んでいく。追いかけられても怯むな!かわせ!出口のディフェンスを切り抜ける。来た!ゴール下だ!今フリーでゴール下にいる。シュートを打つ!行け!ゴールネットを揺らせ!! 俺はボールの軌道を目で追う。出口はゴール下に構えた。 でも、本当にこれが決まったら、寂しいかも。今目の前にいるコイツとこうやって喋ったりとかできなく…… 「あー!!」 リングがボールを弾く。慌てて走るがそれをリバウンドで捉えたのは出口で、そのボールはそのままリングに叩き込まれた。 「なんだよ!反則だろ!!そんな漫画みたいに」 俺が下からキャンキャン騒げば、コイツは楽しそうにボールを手に笑う。 「惜しかったね。縁くん。僕は嬉しいけどね。」 コイツから解放される日は、来ないのか。 頭をポンポンされて、手を払いのける。 「だから、気安く触んな!」 余裕の表情を見せられた。やっぱムカつく。 でも、一瞬。俺、ちょっと、寂しいって思った。 なんで?俺、コイツ嫌いなんだけど!! 「ねーねー、負け通しの縁くん。」 「はあ?」 確かに負け通しだが、言われるとムカつく。 「喉乾いたなー。って。思うんだけど。」 「はあ?何が言いてえの?」 12個も上のくせに、年下の俺に飲み物奢らせる気か。輩かよ。 俺が睨みつけると出口が年上の余裕を見せてきた。 「アイスコーヒーでも飲みに行かない?」 「…え?」 「まだ遊ぼうよ。」 甘い声。この音、苦手なんだよ。頭の中、止まりそうになるんだ。 「ね?」 前髪を触られた。恥ずかしいからやめてくれ。目を逸らす。 「結局、あんた今日1日俺といるつもりかよ?」 「ダメ?」 目の前にしゃがまれて下から見られた。 犬みたい。人懐こそうな目。断れない。 「じゃ、あの。」 「うん。」 「コーヒー飲んだら解散で。」 「えー?」 なんだその甘え方。やめろよ。 コイツと、夕飯まで一緒に食ったら、また、連れ帰られないとも限らない。 「俺だって、明日は仕事だし!昨日みたいにされるのは勘弁だから。」 セックスの感覚を思い出して顔が熱くなってくる。出口に一瞬ポカンとかされた。で、その顔はまた、満面の笑みになる。 「本当にかわいいね、縁くん。やっぱ大好き。」 「うるせー!」 なんでこんな俺のことそんな風に言うんだよ。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加