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ボールはネットから地面に落ちて
「また、僕の勝ち。」
出口が楽しそうに拾った。
「ずるいってー!!」
出口がボールを拾って俺に渡してくる。
「今度が最後ね。いい?」
「勝つから良いよ。」
「へえ。」
3ポイントラインに立つ。
「これで、あんたとサヨナラだ。」
「そうなったら少し寂しいね。」
「俺はせいせいする。」
絶対に勝つ。絶対にシュートを決める。
「来い。」
だから、全然隙が無いんだよ。けど、道は開ける。右に見つけた微かな隙に飛び込んでいく。追いかけられても怯むな!かわせ!出口のディフェンスを切り抜ける。来た!ゴール下だ!今フリーでゴール下にいる。シュートを打つ!行け!ゴールネットを揺らせ!!
俺はボールの軌道を目で追う。出口はゴール下に構えた。
でも、本当にこれが決まったら、寂しいかも。今目の前にいるコイツとこうやって喋ったりとかできなく……
「あー!!」
リングがボールを弾く。慌てて走るがそれをリバウンドで捉えたのは出口で、そのボールはそのままリングに叩き込まれた。
「なんだよ!反則だろ!!そんな漫画みたいに」
俺が下からキャンキャン騒げば、コイツは楽しそうにボールを手に笑う。
「惜しかったね。縁くん。僕は嬉しいけどね。」
コイツから解放される日は、来ないのか。
頭をポンポンされて、手を払いのける。
「だから、気安く触んな!」
余裕の表情を見せられた。やっぱムカつく。
でも、一瞬。俺、ちょっと、寂しいって思った。
なんで?俺、コイツ嫌いなんだけど!!
「ねーねー、負け通しの縁くん。」
「はあ?」
確かに負け通しだが、言われるとムカつく。
「喉乾いたなー。って。思うんだけど。」
「はあ?何が言いてえの?」
12個も上のくせに、年下の俺に飲み物奢らせる気か。輩かよ。
俺が睨みつけると出口が年上の余裕を見せてきた。
「アイスコーヒーでも飲みに行かない?」
「…え?」
「まだ遊ぼうよ。」
甘い声。この音、苦手なんだよ。頭の中、止まりそうになるんだ。
「ね?」
前髪を触られた。恥ずかしいからやめてくれ。目を逸らす。
「結局、あんた今日1日俺といるつもりかよ?」
「ダメ?」
目の前にしゃがまれて下から見られた。
犬みたい。人懐こそうな目。断れない。
「じゃ、あの。」
「うん。」
「コーヒー飲んだら解散で。」
「えー?」
なんだその甘え方。やめろよ。
コイツと、夕飯まで一緒に食ったら、また、連れ帰られないとも限らない。
「俺だって、明日は仕事だし!昨日みたいにされるのは勘弁だから。」
セックスの感覚を思い出して顔が熱くなってくる。出口に一瞬ポカンとかされた。で、その顔はまた、満面の笑みになる。
「本当にかわいいね、縁くん。やっぱ大好き。」
「うるせー!」
なんでこんな俺のことそんな風に言うんだよ。
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