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収録が終わって機材を全て片付けて、局に戻ったのが午後8時。
「立木道場、団体戦、やっぱ強かったですねー。」
「毎回、すげえよなー。三男の朱里、飛び蹴りとかやべーよ。」
機材を車から運び出しながら技術スタッフのみんなが盛り上がっている。そう、やはり優勝したのだ、ゴリラたちは。
「然もさー、天才的だよな。あのスピードなんなん?」
「かっけーよなー。」
然は、確かに昔から技の判断も、そのスピードも早かった。
荷物を黙々と倉庫に戻し、また車に戻り
「あ、立木。」
小田さんに声をかけられた。
「はい。」
「お前、制作なんだからもういいぞ。自分の荷物だけ持って制作フロアに戻れ。」
周りを見ると、まだまだ戻すものがあって。
「……。あの。」
「ん?」
「俺、邪魔ですか?」
「え?」
「だって、まだまだ戻すものがあるのに。」
制作の荷物は、バッグ3つに全て収まっているため、出すのも最後でいい。スケッチブックにストップウォッチ、マジックにネームプレート…そんなもんだ。番組の編集は報道部がやるし、制作部は、ほとんどこのあとすることがなく帰るだけだ。
「残業、大丈夫かー?」
今月は、まだ大丈夫だ。上限の45時間にはあと、10時間ある。
「大丈夫です。俺も機材の場所覚えたいです。」
「ま、助かるけど。」
片付けはなんだかんだ8時半には終わった。
「じゃな。」
小田さんに手を振られた。
「はい。お疲れ様でした。」
制作の荷物の入ったバッグを持ち制作フロアに向かう。
とりあえず、明日のスケジュール確認したら帰ろう。
「あ、立木ー!!」
しばらく歩いてから小田さんが後ろからついてきた。
「え?」
「ありがとな。」
そう言って、何かが放物線を描いてこちらに向かってきた。慌てて受け取れる位置に立つ。俺の手が掴んだのは
「また、明日。お疲れさーん。」
カロリーメイトのバニラ味。ハーフサイズ。
「あ!ありがとうございます!」
小田さんが手を振ったのが見えた。
なんか、ドラマのワンシーンみたいでダサい。小田さんらしい。
会社を出たのが9時。
1日を思い出しながら歩く。収録後も父に会ったが、父は目も合わせてくれなかった。俺は、一生許されないんだろうな。そんな気がする。じゃあ、なんで赤堀アナウンサーと俺の話をしたんだろう。単なる気まぐれだろうか。
「ん?」
気がつくとアイツの美容室の前にいた。
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