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目の前のイケメンが目を丸くする。が、すぐににこやかな柔らかい表情に戻った。
「ふふふ。ごめん。」
そう言って、また、前髪を触ってくるから目眩がする。俺の振り絞った勇気なんてコイツの前じゃ、羽みたいに軽いもんなのか。
「あ、たっちー、カフェ行くの?」
「ああ、はい。」
ふざけんな。だからこっちの方向に曲がったんだろって。
「ねー、あそこのおすすめ知ってる?」
「え?」
声が柔らかくて、上から降りてくる音に耳が吸い寄せられる。
「僕、時々買うんだけど、タルトタタンだよ。今度、一緒に食べようね。」
俺は足を止めた。
「どうしたの?」
振り返って、そう言われて、なんで今俺はコイツと一緒に歩いているのか意味のわからなさに唖然とした。
「あの、…なんで、一緒に?」
俺の問いかけにイケメンが満面の笑みを見せた。
「決まってるじゃん。僕がたっちーを好きだからだよ。」
梅雨の湿気が漂う6月下旬。けれど空は晴れ渡り。
なのに俺は脳天をかち割られた気分だった。
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