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⑧遠征ロケ
体がどうしても密着する。
ホテルの一室。狭いシングルの部屋で、シングルベッドに成人男性が2人、寝転がっている状況。
暑い。少しでも動いたらコイツを起こしてしまいそうだし。起きたら起きたで、コイツ何するかわからないし。てか、コイツのことは絶対に寝不足にするわけいかないし。変に緊張して眠れない。
触れる場所によっては胸がドキドキしてくるし。
今、襟足付近にコイツの息がかかってて、熱い。
スマホをチラッと見る。午前1時。ため息が出る。
どうしよう、これで一睡もできなかったら。東京まで来て、ロケでへぐったら目も当てらんないよな。嶋佐さんに迷惑かけたくないし。小田さんは怖いし。寝たいんだよ。眠りたいんだよ。
「……縁くん?」
「!」
俺、なんかした?なんで起きたの?スマホ明るかった?そのせいで起きたの?
襟足に出口の手が触れる。
「すごい汗だね。」
頼むから耳のそばでその甘い音出さないで。その声苦手なんだよ。頭溶けそうになるから。
後ろから、脇腹を撫でられ、体がビクンと反応した。
「ふふ。やっぱり、シングルは狭かったね。ベッド。」
「…は、はい。」
「眠れないんじゃない?」
出口が体を起こして、そばにあるペットボトルの水を飲んだ。暗闇でも、シルエットでそれがわかる。
「スマホ、ごめん。その、時間、気になって。」
「え?ああ。大丈夫、大丈夫。僕も起きてたし。」
ペットボトルを置くと、出口が顔を近づけてくる。
「やっぱり、キスぐらいはさせてもらっても良いかな?」
いいわけないだろ!キスは、キスぐらいは、なんて言葉で片付かないものなんだからー!
出口の部屋に俺がいるのは、俺のミスで。俺がのこのこ出口の部屋に入ったのは、出口の親切で。でも、そういうことはしないって約束したからで。
「約束が、違う…。」
「縁くん、本当は僕としたいんじゃないの?」
出口がそう言いながらニヤっと笑う。
「ん!」
唇が重なりそうになり、首を横に振った。
「頑なだね。」
「ロケ、朝早いからダメ!!寝てよ!もう!!」
横を向いて枕で顔を伏せて徹底阻止を決め込んだ。
「ふふ。そう。」
勝った。初めてコイツに勝った。諦めてくれた。
そう思ったのに。
「隙だらけだよ縁くん。」
耳に吸いつかれて、体が痺れだす。
「…うぅう!…やめ、てえ。」
枕を抱える手に力が入る。
「耳、弱いんだよね?力抜きなよ。」
俺がコイツの部屋にいて、こんな良いようにされてるのは、俺というか、ホテル側のミス。
泊まりがけの遠征ロケに来ている。コイツ…出口輝の特番の撮影だ。今日は初日だった。滑り出しは良好だった。感動を覚えるくらいのエピソードもあって、俺はコイツは、本当は尊敬できる人間なのかもと思ったばっかりだったのに。
やっぱり、やっぱり。なんか違う!
耳たぶを舐めまわされて、軟骨を甘噛みされて、耳に息がかかって、耳穴を舌で撫でられて、刺激が強すぎて、頭皮に鳥肌が立つようでいて、背中がゾクゾクしている。
「や、…だ。…やめ、やめてっ。ううぅ。」
枕に顔を押し付けて耐える。
「え?よさそうだよ?」
本当に嫌なヤツだ。良いわけないだろ!!
「きょ、…あんた。の、こと…す、ごって、そ、思った。…き、もち…、……かえ、せよ。……バカ!」
執拗に耳を責められながら、悪態をついた。だけど、
「それはあなたの感想ですよね?」
ひろゆきのモノマネで返されて
「ふざ、…ふざけんな!」
思わず枕から顔を離して、出口の方を向いてしまった。
瞬間、甘ったるくて頭がおかしくなりそうなキスをされて、頭が真っ白になる。
こんなこと、こんなこと、仕事先でこんなこと……。絶対にダメに決まってるのに!!
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