⑧遠征ロケ

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授業はゴープロも少し高い位置に設置して定点でも撮影する。生徒が入って来て、授業の準備を始める。 出口が教室に入る場面から撮影を始めた。俺はブームにつけたガンマイクをカメラに映り込まないように持ちながら小田さんのそばに立って撮影の様子を見守った。出口にはピンマイクがついているから俺が拾うのは生徒の声。 座学から始まる。 ホワイトボードに頭の形を書いて、説明していく。教え方がわかりやすくて、生徒たちも真面目に聞いている。 なりたいものがあるやつは、自分の未来像に対して真剣なんだと思った。 出口は、美容室で接客してる時や俺と遊んでる時とは全然違う顔をしていた。将来の同志を育てる気持ちが強いように見えた。もし、この中から出口の店に就職する人間が現れたら儲けもんだろう。東京と福島はちょっと遠いけど。 「じゃあ、ウィッグでやるので、みんな前に来てくださーい。」 ちょっとだけいつもの出口の顔に戻った。 その顔にホッとする俺がいる。 小田さんが三脚からカメラを外し、教壇に向かう。俺は、三脚がカメラに映り込まないように端に寄せてから小田さんについてガンマイクを生徒に向ける。 小田さんが出口の手元や、その表情、そしてスマホを向け動画を撮影する生徒を撮影する。嶋佐さんは、小田さんのそばで指示を出している。その指示は的確だ。 嶋佐さんの頭の中では、映像がどんどん編集されていっている。そう思うと、この現場に来てよかったと思う。 それに、出口の講師の顔を見て、それがプロ感が強くて、取材対象として魅力的に見えて、この番組を早く見たいと、そう思った。 生徒がウィッグにハサミを入れるのを迷えば、それを察知して声をかけに行くのも、普段からお客さんに気配りができる出口だからできる行動で、それにすかさずカメラを向ける小田さんの観察眼もすごいと思った。 俺には憧れる対象がいる。出口も、もしかしたらそうなのかもしれない。好きになれない理由は、あるにはあるけれど、大人としては憧れる。 頼られたことに応えられる、そんな出口がすごいと思う。隅々に目が行き届くのも尊敬できる。 俺もいつか、誰かに憧れられる大人になれるだろうか。 「小田さん、あの女の子と、あの男の子にお話聞こうかな。」 「あー、俺もいいと思った。」 嶋佐さんと小田さんがそう言ってるのが聞こえて、ブームを短めに持った。 「立木、インタするからついてこい。」 「はい。」 なんとなく、出口の視線を感じた。目が合うと、目を細め柔らかい顔をした。 アイツは俺の仕事をどう見てるんだろう。まだまだ俺は下っ端のアシスタントだけど。
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