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フロントで全員分のカードキーを受け取った時だった。人の数とカードキーの数が合わないのだ。
「あの?ひと部屋足りないんですけど。」
俺は当たり前のようにフロントのスタッフに言った。
「テレビiふくしま様ですよね?」
スタッフさんは、パソコンで調べて
「…3部屋で間違いないようですね。」
「え?」
「シングルに出口様、同じくシングルに嶋佐様、ツインにに小田様と立木様です。」
「はい?ツインに2人入ってますよ?」
「ツインですから…。」
「いやいや、シングル出口、シングル嶋佐、ツイン小田、シングル立木で予約してません?」
「いえ、ツイン小田様立木様です。」
機材で、部屋が狭くなるため、小田さんの部屋をツインにしておこうと思って1部屋はそうしたのだ。
「…あの、今からもうひと部屋って…」
「あいにく本日は満室でして。」
…どうしよう。…どうしよう。背中から汗が吹き出してくる。
「そうですか。すいません。ありがとうございます。」
カードキーを3枚握りしめてロビーに戻った。
「立木、ありがとう。」
嶋佐さんが、そう言ってくれた。これから波乱の幕開けになるであろう場面に出口と嶋佐さんを立ち合わせてはいけないと思う。
まずは出口にカードキーを渡した。
「出口さん、7階の3号室です。」
出口は少し不思議な顔をしながらもカードキーを受け取った。
「ありがとうございます。」
俺にペコっと頭を下げた。
「嶋佐さん。明日、6時にここですよね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。お疲れ様です。」
出口はこういう時、すんなり去ってくれる。距離の取り方が上手いから助かった。
「あ、嶋佐さんは、6階の8号室です。また、明日よろしくお願いします。」
嶋佐さんにカードキーを渡すと
「うん、明日もよろしく。」
嶋佐さんもすんなり部屋に向かってくれた。
「では、小田さん、荷物あるので一緒に部屋に行きましょう。」
「ん?」
俺は荷物を担いで足早にエレベーターに向かった。小田さんは少し不審そうに後をついてくる。
「俺は何階の何号室なんだ?」
「7階の10号室です。タバコの吸えるツインです。小田さんの部屋に機材置かせてください。」
部屋に入ってから話しても問題ないだろう。俺は大人しく早々と寝てしまえばタバコも気にならないだろうし。小田さんも、別に迷惑がらないだろう。小田さんが神経質じゃないことを願いながら部屋を目指す。
「お前は何階の何号室なんだ?」
「まずは、荷物を運びましょう。」
俺はお茶を濁すようにエレベーターに乗った。
「なんか怪しいな。」
「え?何がですか。」
7階について10号室の鍵を開け部屋に入り荷物を一角に集めた。小田さんが自分のバッグをベッドの脇に置いた。
「じゃあ、自分の部屋に行け立木。」
「俺もこの部屋なんです。」
「はあ!?」
小田さんが眉間に皺を寄せるのが見えた。
「予約の手違いで、こうなっちゃって。」
「はあ!?」
「俺早く寝ちゃうので!邪魔しないので!」
土下座をした。
「この部屋に置いてくださ…」
ボディバッグをグイッと掴まれた。
「1日中カメラぶん回して疲れてんだよ。舐めんなよ。青臭いガキなんかと同室で寝られるかよ。」
「そこを!そこをなんとか!」
もう俺は出入り口まで追い込まれていて。カードキーをワイドパンツのポケットから抜き取られて
「お前のミスだろ!!」
「小田さん、お願いします。どうか…」
俺は震える声で縋るけど
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