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⑩仲直りデート!?
嶋佐さんが編集作業をしているその横で、勉強のためにその作業を黙ってみていた。
画面に映る出口は、真剣な顔もゆるい顔もしていて、どっちにしろイケメンだ。俺は気がついたら画面を睨みつけていた。やっぱりどこか、出口に対して嫉妬してしまう。
背が高い、腕がある、人気がある。俺にないものしかない。
嶋佐さんが俺の方をふと見た瞬間、ハッとした顔をする。
「なんで睨みつけてんの?」
「イケメンには敵意を抱いてしまうんです。」
「……陰キャ。」
「そうです。陰キャの申し子、立木縁とは俺のことです。」
嶋佐さんが、ふはっと笑い声を上げた。
「立木、おもしろいんだけど。」
ペットボトルの水をひと口飲んだ。
「てか、そんなんで勉強になってんの?」
「…なってません。雑念が湧き出てしまって。」
「おい。」
俺が持ってきた勉強ノートは真っ白だ。VTRの編集機の使い方は知っているが、構成や映割りなどは全く知らないから編集ができない。
「番宣、立木に作ってって言ったけど、希望が持てなくなってきたなあ。私がやった方が早いかなー。」
なんということだ。仕事のチャンスが。
「嶋佐さん。一度任せたものは最後までやらせるのが筋です。」
俺は食い下がった。
「…おい、雑念陰キャ。口だけ達者か?本当にできるか?」
嶋佐さんは、時々パワハラに近い言葉を発する。
「できます!」
「やる気は買うよ、立木。」
ロケは、順調に進んでいた。
出口の母校へ行き部活の思い出を振り返った。出口が在籍していた間バスケ部は最強チームと言われ、全国ベスト3に入っていた。そんな思い出を振り返ったりした。
「あとは、“訪問”のロケで終わりだね。」
嶋佐さんが少し寂しそうに言った。
「あたしも、出口さんのサロンで髪切ってもらいたいなー。」
「え?」
嶋佐さんがマウスをいじって、夜間撮影した女性客の表情を画面に出した。
「出口さんのお客さん、変わった自分に対する満足度が高いんだよね。いいなあ。」
俺もその画面を見た。満面の笑みを浮かべる女性が映っている。
アイツはこんな顔をたくさんの人にさせている。
「これは魔法だよね。」
嶋佐さんが、意外と乙女なことを言い放つので、俺は思わずその顔を見た。
「何?」
「いや。」
嶋佐さんが俺の顔をじっと見る。
「そういえば立木。」
「はい。」
「微妙に髪型変えた?なんか良い香りするし。」
出口の美容室で買ったヘアバームはレモングラスの香りがする。
「どこの美容室行ってんの?」
「…あ。えっ…とー…。」
“and be”とは、言えなかった。
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