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車は福島西インターから東北道に乗った。
「縁くんはさ。」
「え?」
「なんか好きな音楽とかあるの?」
最近聞いた音楽を思い出す。うちの番組のテーマソングだった。
「……ない。」
「そかー。僕、サンボマスター好きなんだー。」
「へー。」
全く興味がわかない。コイツがどんな音楽が好きだろうが俺には関係ない。
「えー、ちょっと。理由とか聞いてよ。」
…めんどくせ。でも、聞かなきゃ聞かないでずっと言ってきそうだし。
「……なんでですか?」
「うん、恥ずかしいんだけどね。電車男ってドラマがあって。」
「………知らね。」
電車マニアのドラマか?ずっと、キハ70だとか、パンタグラフがどうのこうのとかドクターイエローとか、そんなことばっか言ってる…、そんなドラマか?
「ちょうど2チャンが流行り出した頃のドラマでね。ストーリーは割愛するけど、ものすごい純愛で。」
…余計興味ない。なんだ恋愛ドラマか。
「なんか、叶えたい恋ってキュンキュンしない?」
「しない。」
「そうなの?」
「全然興味ない。どうせドラマなんて上手くいくんだろ」
「ま、そうだけど。」
出口はまっすぐ前を見ている。
東北道はトンネルが多いからワンセグが固まる。
「立木家の四男は女みたいだ。」
「…ん?」
俺は、今まで言われた、俺の外見の感想を口にだした。
「立木家の四男は、線も細いし体も小さい、きっと嫁は取れないだろう。いっそ女に生まれた方がまだ貰い手もあったかもしれない。」
「ん?何、それ?」
思い出すごとに、
「縁ちゃんは、顔が可愛過ぎて女の子みたいだから付き合う対象じゃないよー。」
「へー。」
ムカついてくる。
「みんな外見しか見てない。俺の顔が女みたいなのは俺のせいじゃない。背が小さいのも痩せ型なのも。」
サイドミラーに映る自分の顔に舌打ちした。
「俺は、受け入れてもらえない。好意を持つのがどんなに無駄か知ってる。」
こんな顔じゃなければ。まだ違ったかもしれない。
「僕は好きなんだよなー。」
出口の発する声が能天気に聞こえた。
「いっそ、僕のお嫁さんになれば良いのに。」
その声に思わず出口を見た。
「は?」
「全部解決じゃん?」
左にウインカーを出してインターチェンジに降りていく。
「わけわかんな。」
「そのうちわかるよ。縁くんは僕を好きになる。」
出口は余裕そうにそう言った。
「俺は、あんたのこと好きになんかなんないから。」
俺は意地でも恋愛なんかしない。そんな意志を込めて言い放った。
出口は、ふふふと笑いながら車をゆっくり減速する。ETCのレーンに入って高速を降り郡山市街地へ向かう。
一般道に入り郡山駅を目指した。
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